「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」より  TM & © 1989,2023 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

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2023.6.05

コネリー、フォード、フェニックス 3世代スターがそろった第3作 最高傑作の呼び声高い「最後の聖戦」

インディ・ジョーンズが帰ってくる! 15年ぶりの新作「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」が6月30日に公開される。ハリソン・フォードも健在で、これが〝最後の〟大冒険。第1作「レイダース 失われた聖櫃(アーク)」の公開から42年、インディ・ジョーンズの活躍を、ひとシネマがまるっと解説します。

鈴木隆

鈴木隆

〝シリーズ最高の完成度〟と誉れ高いのが、この第3作「最後の聖戦」だ。インディの父親役に007シリーズの初代ジェームズ・ボンド、ショーン・コネリーを起用し、不老不死の聖杯を探す旅と父子の葛藤と和解の物語が合体する。
 
1989年7月、夏休み映画の目玉として公開され、配給収入44億円(興行収入から映画館の取り分を除いた収入)と邦洋合わせてこの年のトップを記録した。ハラハラドキドキの活劇に加えてユーモアあふれる父子の掛け合いで、笑いも満載である。
 

人気絶頂、リバー・フェニックスが少年インディ

映画冒頭に登場する少年時代のインディを、当時人気絶頂のリバー・フェニックスが演じたことも話題に。「スタンド・バイ・ミー」(86年)、「旅立ちの時」(88年)などで広く知られ、人気、実力ともに若手のトップを走っていた。
 
本作のインディ少年は、ベネチア国際映画祭で主演男優賞を受賞した「マイ・プライベート・アイダホ」の繊細な若者とは全く異なって血気盛ん。馬と車、走行中の貨物列車の車両上と、派手な立ち回りを披露し、片時も目が離せない。スリル満点のアクション大作の幕開けを華麗に飾っている。本作の4年後、93年に23歳で早世したのが惜しまれる。
 

行方不明の父親を捜しに

さて、映画の舞台は38年。冒険家で考古学教授のインディ・ジョーンズに、大富豪ドノバンから相談が持ちかけられる。キリストの聖杯の所在を示す重大な遺物を手に入れたが、調査隊の隊長が行方不明になり捜してほしいという。
 
隊長が父のヘンリー・ジョーンズと聞き、消息を絶ったイタリア・ベネチアに向かうインディ。父の同僚エルザ・シュナイダー博士と合流し、教会の中で聖杯探しの鍵となる石板を発見するが謎の男たちに襲われる。と、ここからが怒濤(どとう)の冒険活劇が加速する。
 
石板の文字の秘密とかキリストの血を受けたといわれる伝説の聖杯とか、その聖杯で水(?)を飲むと永遠の命が保証されるとか、ありがちな設定は気にしないこと。聖杯がある場所に行きつくまでの、アクションに次ぐアクションがなんといっても見どころだ。
 

追いつ追われつ 映画の原点

追う者と逃げる者の競争は、映画の原点の一つ。本作では動くものなら何でもOK、人が操れてスピード感があるもの、人工物でも自然にあるものでも、エンタメ最優先で縦横無尽に使い尽くす。
 
地下室での大量のネズミや迫り来る炎を逃れ、モーターボートで海に出ると大型船のスクリューに巻き込まれそうになる。ザルツブルクのナチの要塞(ようさい)でようやく父を見つけて救出すると、車とバイクの追走劇。ベルリンでは飛行船やプロペラ機を操り、トルコでは馬で逃げるインディ父子を戦車が追う。スピーディーな展開にクギ付けだ。
 

〝有りモノ〟駆使してリアルなアクション

昨今のアクション映画で定番となった巨大生物や機械仕掛けのロボットもいいが、実際にある(あった)動くもののほうが断然リアルで爽快感が増すのである。「インディ・ジョーンズ」シリーズの魅力の一端は、こうした伝統的な映画作り、映画素材に磨きをかけたことにあるのだ。
 
映画だからなんでもあり。何をどう描いても自由だし、荒唐無稽(むけい)も大いに結構。そしてそこに人間臭さが加味されると、面白さは倍増する。ジャンルや作品の大小を問わず、基本は変わらない。活劇ならばなおさらだろう。
 

ウイットとユーモアで緩急絶妙

本作もお話が進むにつれて、不仲だったと推測されるジョーンズ親子の関係が次第に変化していく。仲直りしたという類いのドラマチックな展開ではなく、追っ手から身を守るために協力するうちに、互いに認め合うようになる。親子の関係性の変化をべたべたさせずに描いていく。人情ドラマとアクションとのさじ加減が絶妙なのである。
 
アクションの合間に、ウイットに富んだ会話やユーモアもふんだんに取り入れている。群衆の中で突然ヒトラーに出くわしたインディが、秘宝発見のカギを握る手帳にサインをしてもらう一幕や、戦車に追われ崖が迫る直前に九死に一生を得て座り込むインディに、そっけなく「行こう」というヘンリーのひょうひょうとした態度などクスッと笑ってしまう。活劇と笑いは相性が抜群にいいのである。
 

一瞬で見せる親子のドラマ

いよいよ聖杯の行方に迫る砂漠の中の終盤で、父子のやり取りはますますさえる。ヘンリーはそれまでインディを「ジュニア」と呼んできたのだが、インディはその呼び方が不満だった。しかし聖杯を目の前にしたインディが我を忘れ、身の危険を顧みず手をかけようとした時に「インディアナ」と初めて名前を呼ぶ。息子はそこで我に返り、父と視線を交わす。父は聖杯より大切な命の尊さを教えるのだ。
 
親子の絆を感じさせる名場面だ。ほんの一瞬だが、スピルバーグ監督がこの作品で最も描きたかったシーンである。スピルバーグ監督は「ラストで父に息子の名前を呼ばせたかった」と述べている。
 
そして映画はそこで終わらない。〝感動〟で締めくくることはなく、もう一つオチがついているのである。最後の最後まで、ニヤリとしながら味わってほしい。
 
ドラマあり、アクションあり、ユーモアありのてんこ盛りの2時間余り。公開時に筆者は、確か仕事が早く終わった平日の夜に映画館に足を運んだ。面倒な仕事や煩わしい問題ごとを抱えていたはずだが、雨あがりのようにすっきりした爽快感と充足感で家路についたことの方が記憶に残っている。

 

 


「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」
4K Ultra HD+ブルーレイ:6589円(税込み)2023年6月7日発売
Blu-ray:2075円(税込み)
DVD:1572円(税込み)
NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2023年5月現在の情報です。
TM & © 1989,2023 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。