映画やドラマでよく見かけるようになったあの人、その顔、この名前。どんな人?と気になってるけど、誰に聞いたらいいのやら。心配無用、これさえ読めば、もう大丈夫。ひとシネマが、お教えします。
2024.8.20
2024年も綾野剛の快進撃は続く 「カラオケ」「地面師」ほか〝細胞から作り変える〟熱演を解説
劇中セリフがミーム化
7月25日にNetflixで配信されるや、日本のテレビ部門で初登場1位、週間グローバル8位(テレビ・非英語部門)にランクイン(7月22~28日)した「地面師たち」。作品の口コミはもちろんのこと、「もうええでしょう」や「最もフィジカルで、最もプリミティブで、最もフェティッシュなやり方でいかせていただきます」といった劇中セリフがミーム化され、現象化と言っていい盛り上がりを見せている。
寄せすぎない選択肢
その立役者の一人が、豊川悦司と共にダブル主演を務めた綾野剛。なんと今年は「地面師たち」を含めてドラマ1本・映画5本が公開される活躍ぶりで、俳優としての表現力の幅広さが改めて高評価されている。2023年末に配信されたNetflixシリーズ「幽☆遊☆白書」で原作の人気キャラクター、戸愚呂弟にふんした際も大いに話題を集めたが、そこから間を空けずに1月には和山やまの人気漫画を山下敦弘監督が実写映画化した「カラオケ行こ!」が劇場公開。カラオケ大会で最下位になると恐ろしく絵心のない入れ墨を彫られることから、絶対に歌がうまくなりたいヤクザを好演した。同作の取材時、綾野は形態模写に近い「実写化」とフォーマットに合わせて手心を加える「映画化」の違いを語っていたが、髪形等々を無理に寄せすぎない後者の選択肢をとった本作は驚異的なファンダムを形成。X JAPANの名曲「紅」を熱唱して圧倒させつつも観客を笑わせたかと思えば、えたいのしれないなかにも絶妙な色気を織り交ぜた綾野による〝狂児像〟に魅せられたリピーターが続出し、約4カ月に及ぶロングランヒットとなった。「ヤクザと家族 The Family」の盟友・藤井道人監督による2月末配信のNetflix映画「パレード」では、映画館のシーンで友情出演している。
ベクトルの異なる複数の演技を同時発動
そして「地面師たち」では、不動産詐欺の被害者ながら加害者に転ずる複雑な役どころに挑戦。豊川悦司、ピエール瀧、小池栄子、北村一輝ほか濃い面々によるあくの強い芝居に付き合わず、水を打ったように淡々とした演技をベースラインにし、かえって不気味さを際立たせる高度なテクニックを披露。しかし感情がないのではなく、時折見せるすごみや過去に負ったトラウマに苦しめられる姿、ホストクラブに潜入する際のだまし方等々、俳優・綾野剛の引き出しの多さを存分に堪能できる見本市的な仕上がりに。配信前に本人に話を聞いた際、「詐欺師が〝手段〟として選択する〝芝居〟とは?」を考え、概念から再構築したと話していたが、さもありなん。詐欺師としての役割を粛々とこなす辻本拓海という人物を生きたうえで、辻本が「だますための芝居をしている」と視聴者が納得できるようなベクトルの異なる複数の演技を同時発動させている。これは、単に芝居を「重ねる」とは似て非なるものであり、直近だけでも「幽☆遊☆白書」→「カラオケ行こ!」→「地面師たち」と蓄積されていくなか、視聴者にまるで異なるイメージを抱かせるのはさすがとしか言いようがない。さらにいうなれば昨年公開の「最後まで行く」で扮した暴走監察官の壊れっぷりも強烈だ。
話題作が立て続け
作品性に合わせて、細胞から作り変えるような最適解の芝居を繰り出し続ける綾野剛。以降、星野源との名バディーがいまなお愛され続ける「MIU404」の人気キャラクターを再演する「ラストマイル」(8月23日公開)、堂本剛が27年ぶりに映画主演を飾った荻上直子監督作「まる」(10月18日公開)、「ある男」の著者・平野啓一郎のSF小説を石井裕也監督・池松壮亮主演で映画化した「本心」(11月8日公開)と、アナウンスされているものだけでも話題作が立て続けだ。「本心」においては仮想空間上にAI(人工知能)でよみがえった人物VF(ヴァーチャルフィギュア)という難役を託されており、説得力をもたらすには苦労したことだろう。これまでも「そこのみにて光輝く」「リップヴァンウィンクルの花嫁」「日本で一番悪い奴ら」「怒り」等々、多くの作品で異彩を放ち続けながら、固定されないところに俳優・綾野剛の最大の強みがあるのかもしれない。