活弁上映会

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2022.10.28

インタビュー:「カツベン」経験すれば絶対面白い 古くて新しい映画ライブ 弁士・大森くみこ

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浦窪学

浦窪学

 絶妙な「語り」でサイレント(無声)映画に新たな命を吹き込む活動写真弁士。いわゆる「活弁」に注目が集まっている。関西を拠点に活動する唯一のプロ弁士、大森くみこさんは、今年でデビュー10年。あらゆるジャンルの登場人物を「七色の声」で演じ分け、観客を魅了する。11月5日、大阪での上演会では、約100年前のサイレント映画「オペラ座の怪人」を現代によみがえらせる。大森さんに活弁とサイレント映画の魅力を聞いた。
 

大森くみこさん

活動弁士 首相と並ぶ高給取り……昔は

――活動写真弁士とは。
 
明治から昭和にかけ、日本の映画館ではサイレント映画を語りと生演奏で楽しんでいました。日本独自の文化です。最盛期には7000~8000人の弁士がいて、時の首相と同じ給料をもらう超花形の職業でした。贔屓(ひいき)の弁士の語りを目当てに映画館に足を運ぶ人がいたほどです。映画に音がつくようになって弁士は廃業に追い込まれました。現在、活弁を職業としているのは約15人です。
 
――活弁の魅力は。弁士としてご苦労もあるかと思います。
 
「映画なのにライブ」ということ。活弁には、あらゆるおしゃべりの要素が詰まっている。一方で一から台本を書いたり、作品の時代背景を調べたりが仕事の8割。どの部分をピアノに任せるか、リズムに乗せるか。自分で映画をどう演出するか。言葉を乗せすぎると滑ってしまうという「アリ地獄」のような時期もありました。言葉をいかに引き算、足し算するか、そのさじ加減に今も苦労しています。
 

豪華な映画と語りの魅力

――関西弁の語りが軽妙です。
 
古い外国の映画で登場人物が多いと、誰が誰かわからない。区別できるように、その1人を関西弁にすることがあります。外国人が関西弁、「何でやねん」と突っ込まれますが。
 
――サイレント映画について教えてください。
 
100年前には娯楽が少なく、映画にものすごいお金がかけられている。セットも衣装も豪華で、映像で表現することに人のエネルギーが満ちあふれている。全く古臭くない。活弁は映画解説者でもあり、現代の弁士にとって、昔と今をつなぐことも大事な役割です。
 

「オペラの怪人」=マツダ映画社提供

新しい娯楽として復活を

――「オペラ座の怪人」の見どころは。
ミュージカルの「オペラ座の怪人」がおなじみですが、その演出と見比べるのも面白い。怪人役のロン・チェイニーのサイレント時代ならではの演技、動きに注目してください。わかりやすい演目で誰が見ても楽しめる、絶対に面白い。無声映画、活弁というと「難しそう、つまらなそう」と思われることもあるのですが、全くそうではないことが一度体験するとわかります。ピアノ演奏の天宮遥さんはサイレント専門の伴奏ピアニストで、楽譜もなく即興で演奏します。まさに一期一会のライブです。
 
――今後の活動について。
小学生などには新鮮で、最近は若い人も活弁に興味を持ってくれることがずいぶん増えました。とはいえ、活弁はまだまだ知られていません。新作のサイレント映画作りにも取り組んでいます。懐かしいだけではない、新しいエンタメとして、活弁を定着させたいですね。
 
大森くみこ(おおもり・くみこ) 司会業などをしていたが、テレビで活弁をみて「一目ぼれ」。サイレント映画上映会、国内外の映画祭に多数出演。天満天神繁昌亭にも色物で定期出演。関西でただ一人、活弁の灯を守ってきた井上陽一さん(2021年、82歳で死去)の教えを引き継ぐ。公式サイトはこちら
 

「傑作!サイレント映画「オペラ座の怪人」を活弁とピアノ演奏で楽しむ!」

大阪市北区の毎日新聞オーバルホールで11月5日午後1時半開演。2500円。1925年公開のユニバーサル映画超大作で現存する最古のサイレント版の「オペラ座の怪人」=公開時の邦題は「オペラの怪人」=のほか、「世界三大喜劇王 特選ギャグ集」を上映。事前に06・6346・8787(平日午前10時~午後5時)から申し込む。

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ライター
浦窪学

浦窪学

うらくぼ・まなぶ 毎日新聞大阪開発株式会社代表取締役社長。1989年、毎日新聞入社。大阪本社・社会部、京都支局、編集局次長、東京・情報編成総センター室長などを経て2022年6月から現職。趣味は能楽。

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