第79回毎日映画コンクールでスポニチグランプリ新人賞を受賞した「ぼくのお日さま」の越山敬達

第79回毎日映画コンクールでスポニチグランプリ新人賞を受賞した「ぼくのお日さま」の越山敬達三浦研吾撮影

2025.1.23

「宝物のような作品です」池松壮亮に支えられて栄冠 毎日映画コンクール新人賞 越山敬達「ぼくのお日さま」

2024年を代表する映画、俳優を選ぶ「第79回毎日映画コンクール」。時代に合わせて選考方法や賞をリニューアルし、新たな一歩を踏み出します。選考経過から受賞者インタビューまで、ひとシネマがお伝えします。

筆者:

佐々本浩材

佐々本浩材

撮影:

ひとしねま

三浦研吾

2年前の撮影時は13歳。映画の中の越山敬達はまだ子どもっぽいが、それから身長も十数センチ伸びて172センチと一気に成長し、取材では時に大人びた顔も見せるようになっていた。「初主演作で、僕にとっては特別な作品。良い作品に巡り合い、こうやって賞をいただけて、本当に幸せ者だと思います。ぼくを支えてくださった方々にお礼というか、感謝というか、そういう気持ちでいっぱいです」


憧れの女子とアイスダンス 吃音の小6男子

演じたのは、夏は野球、冬はアイスホッケーの練習に励む小学6年のタクヤ。うまく言葉が出てこない吃音(きつおん)の症状を持っている。苦手なアイスホッケーでけがをしたタクヤは、ドビュッシーの「月の光」に合わせて滑走する中学1年のさくら(中西希亜良)の華麗な姿をリンクで目にし、心を奪われる。そんな様子を見た、さくらのコーチ、荒川(池松壮亮)はスケート靴を貸し、タクヤの練習に付き合う。荒川の提案で、タクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習を始めるが……。3人の出会いと別れが、交錯するそれぞれの思いとともに淡い光と色の映像で描かれる。

タクヤを演じた越山、さくらを演じた中西の自然な演技が印象に残る。奥山大史監督は演技経験が少ない2人にあえて台本は渡さず、シーンごとにセリフと状況を伝えるだけにとどめた。2人は台本を見ている池松のリードで物語を生き、セリフは言いやすい表現に変え、自らの言葉として口にした。日常に近い2人の姿が映像には収まっている。


「ぼくのお日さま」© 2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

「タクヤは100%ボク」

「『ぼくのお日さま』のタクヤは100%ボクです。吃音などの設定は別にして、ボクそのもの。言われたことをそのままやっていたボクなんです。台本があると、みんな考えて、役を作り込んできちゃう。後から聞いた話ですが、オーディションでのボクの雰囲気がタクヤっぽかったらしいんです。奥山監督はボクをそのまま自然体でいさせたくて、そうしたんじゃないかなと思っています」

この映画に入るまで、吃音のことは全く知らなかったが、ネット上の動画などを見て工夫した。「監督からは、ここでこの程度、言葉に詰まってとか細かく指示がありました。『タクヤって大事な時こそ(吃音が)出ちゃうと思う』。監督から現場で言われて、ボクが一番しっくりきた言葉です。タクヤっぽいと思うし、タクヤってなんかいいなあと思うんです。吃音はタクヤの感情(の高まり)に比例してると思っていて。表面的な部分だけでなく、心の奥の奥まで見ていただけるとうれしいです」


「もっとできるだろう」NG20回のラストシーン

フィギュアはかつて、習っていたことがある。劇中の下手な姿は「うまく滑れなかった時は何が原因だったのか」を思い出しながら再現したという。それでもアイスダンスには苦労した。「フィギュアのシューズのつま先部分で相手を蹴っちゃうとけがをさせてしまう。そんな怖さもあるし、動きを合わせないといけない難しさもある。(アイスダンス経験者の)中西さんのリードで、ようやくできました」

タクヤとさくらは、ある出来事を機にアイスダンスのペアを解消。そんな2人が、雪解けの春に再び顔を合わせる。タクヤがさくらに何かを言おうとしたところで映画は終わる。 「あの場面は監督から『自分が思っていることを何でもいいから言ってみて』と指示されて。(使われていないが)『また一緒に滑ろうよ』としゃべっています。あそこは二十数回、撮り直していて、すごくつらかったシーンなんです。途中で『少し良かったけど、もっとできるだろう』と言われたけど、自分では何も変えていないので分からなくなっちゃって。車に一度戻って、気持ちを落ち着かせてから臨んだのを覚えています」


カンヌの喝采「こんなすごいことがあるんだ」

映画は2024年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品。越山もカンヌを訪れ、公式上映後には総立ちの観客から拍手を送られた。「ボクのような子どもが行っていいのかという気持ちもありました。作品によっては上映後、観客がすぐに帰っちゃうこともあると聞いていたので、ちょっとおこがましいですけど『来てよかった』『ここにいる人たちに認められてるんだな』と。こんなにすごいことってあるんだと感動しました。また行きたいな」

初主演作でカンヌに行き、新人賞にも輝いた。「15年しか生きてないですが、あの冬は今まで生きてきて一番の冬です。池松さんからは、楽しんで芝居をすることを教わりました。この映画があったから、今のボクがあります。ボクにとっては一生忘れない宝物のような作品で、つらいことがあってもこの作品を思い出すと、ハッピーになれそうです」

次世代を担う若手男性俳優を集めた所属事務所のユニット「EBiDAN NEXT」のメンバー。今の目標は、NHK連続テレビ小説「おむすび」に出演中の佐野勇斗だ。自身も活動の幅を広げ、俳優としては「次は助演俳優賞」と夢は大きく広がる。「この素晴らしい賞に恥じないように俳優としても頑張っていきたいし、アイドル活動も両立させたいです」

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