第76回カンヌ国際映画祭で「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」の記者会見に先立ち写真撮影に応じた(左から)ロバート・デ・ニーロ、マーチン・スコセッシ監督、リリー・グラッドストーン、レオナルド・ディカプリオ=2023年5月21日、ロイター

第76回カンヌ国際映画祭で「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」の記者会見に先立ち写真撮影に応じた(左から)ロバート・デ・ニーロ、マーチン・スコセッシ監督、リリー・グラッドストーン、レオナルド・ディカプリオ=2023年5月21日、ロイター

2023.5.23

「怪物」受賞なるか!デ・ニーロ、ディカプリオ、ダグラス、ドヌーブ、フォード、ハリウッドのレジェンド続々カンヌ入り 映画祭終盤に突入

第76回カンヌ国際映画祭が、5月16日から27日まで開催されます。パルムドールを競うコンペティション部門には、日本から是枝裕和監督の「怪物」、ドイツのビム・ベンダース監督が日本で撮影し役所広司が主演した「パーフェクトデイズ」が出品され、賞の行方がきになるところ。北野武監督の「首」も「カンヌ・プレミア」部門で上映されるなど、日本関連の作品が注目を集めそう。ひとシネマでは、映画界最大のお祭りを、編集長の勝田友巳が現地からリポートします。

勝田友巳

勝田友巳

第76回カンヌ国際映画祭もいよいよ終盤。コロナ禍からの完全復活を誇示するように、華やかに開催されている。
 
記者がカンヌを取材するのは、2015年以来。当時は記者1人に一つずつ割り当てられたロッカーに映画の印刷資料が山のように配られ、上映への入場は先着順。今回はすっかり様変わりしていた。環境への配慮を掲げて資料はすべて電子化。ロッカーは消え、紙はほとんど見かけない。上映への入場も4日前にネット上での予約を求められる。コンペ作品上映も、かつては毎朝8時半からプレス向け、午後から夜に公式上映、翌日記者会見という流れだったが、公式上映前のプレス試写はなくなり、夜に集中している。午後11時からの上映が組まれていたりして、すっかり夜型の映画祭である。もっともこちらは日が長く、連日パーティーなどで遅くまでにぎわっているから、実態に合わせたということか。
 

第76回カンヌ国際映画祭で名誉パルムドールを贈られ、自身について語るマイケル・ダグラス=勝田友巳撮影

「カッコーの巣の上で」配給断られた

さて、ここまでの映画祭の話題を拾ってみよう。コンペティション部門では影が薄くても、注目されるのはやはりハリウッド。〝レジェンド〟たちが続々とカンヌ入りした。開幕式で名誉パルムドールを贈られたマイケル・ダグラスは、カトリーヌ・ドヌーブと並んで映画祭開幕を宣言した。17日には公開インタビューが行われ、プロデューサーとしてアカデミー賞を手にした「カッコーの巣の上で」が初めはどこからも配給を断られたといった裏話、父親のカーク・ダグラスへの思いなど率直に語っていた。
 
序盤の目玉は「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」の初披露。ハリソン・フォードがサプライズで名誉パルムドールを贈られた。19日の記者会見では「特別な気分。この仕事が大好きだ」と語って喝采を浴びた。さらにマーティン・スコセッシ監督が新作「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」をコンペ外で上映。ロバート・デ・ニーロ、レオナルド・ディカプリオらと並んでレッドカーペットを歩いた。
 

「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」=映画祭提供

スコセッシ、ディカプリオ、デ・ニーロの超大作

1920年代、石油採掘で富を手にした先住民のオーセージ族への組織的な殺人事件を映画化。3時間半の大作だが、人間の悪魔性、信頼と裏切りといったテーマを骨太に描ききっている。「タクシードライバー」でパルムドールを受賞したスコセッシ監督だが、今回は「若手に道を譲る時」とコンペ外での上映となった。記者会見には3人とオーセージ族の族長も参加。スコセッシ監督はアメリカの負の歴史を描いた映画を手がけたことについて「この年になって、リスクを取る以外に何ができる? 居心地のいい映画を作っても、何かが犠牲になるだろう」と強調していた。
 
ハリウッドで続いている米脚本家組合のストライキも、折に触れて話題に。動画配信サービスの普及で脚本料の計算方法など報酬見直しを求める交渉は決裂し、5月2日にストに突入。長引けば、特にインディペンデントの映画製作に大きな影響を与えると懸念されている。カンヌの期間中も、コンペ部門の審査員長、リューベン・オストルンドや審査員のポール・ダノ、「インディ・ジョーンズ」のプロデューサー、キャスリーン・ケネディらが支持を表明した。
 

「怪物」受賞なるか

さて、パルムドールを競うコンペティション部門は、欧州を中心に大物監督がズラリと並んだ。トップを切った是枝裕和監督の「怪物」からほぼ半分が上映された。力作、秀作の目白押しで、いずれも見応え十分。現地で毎日発行される映画誌の下馬評では、「怪物」は2番手から3番手。
 
ここまでのところ、ジュスティーヌ・トリエ監督の「アナトミー・オブ・ア・フォール」の評判がいい。男性の転落事故を巡る裁判劇で、自殺か妻による殺害かが争われる。妻を被告とした法廷での攻防の中に、人間性が暴かれていくスリリングな展開だった。アキ・カウリスマキ、ケン・ローチといった監督の作品上映はこれから。賞の行方は混沌(こんとん)としている。

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。