映画やドラマでよく見かけるようになったあの人、その顔、この名前。どんな人?と気になってるけど、誰に聞いたらいいのやら。心配無用、これさえ読めば、もう大丈夫。ひとシネマが、お教えします。
2024.7.22
古川琴音の捉えどころない妖艶さ 「海のはじまり」で目黒蓮の元恋人
「最近、よく見るな」と思っている人は多いはずだ。フジテレビ系で放送中のドラマ「海のはじまり」や、公開中の映画「言えない秘密」(河合勇人監督)、「お母さんが一緒」(橋口亮輔監督)に出演している古川琴音だ。この上半期だけでも、ホラー映画「みなに幸あれ」(下津優太監督)、4月期の日本テレビ系ドラマ「ACMA:GAME」(アクマ・ゲーム)に出演。東京都内の駅には、あちこちに彼女の顔が映し出された大きな広告が貼られている。古川琴音とは何者か、インタビューした経験などを踏まえ徹底解説する。
満を持しての「月9」出演、目黒蓮の元カノ役
「海のはじまり」は、数多くの名作を生んだフジテレビの伝統的ドラマ枠「月9」(月曜午後9時)で7月1日にスタートした。主演は「めめ」の愛称で人気の目黒蓮が務める。2022年の大ヒットドラマ「silent」に出演しブレーク。「海のはじまり」は目黒のほか、スタッフも脚本の生方美久、演出の風間太樹、そして村瀬健プロデューサーという「silent」と同じ「座組み」が放送前から注目されていた。
古川が演じるのは、主人公・夏(目黒)の元恋人・水季だ。第1話は水季の葬式から始まる。2人は大学時代に出会い、真剣な交際をしていたが妊娠が分かると水季の強い意志による人工中絶の後、破局していた。
物語は、それから7年後、中絶したはずの子どもが水季の手で育てられていたことが判明。海と名付けられたその子との関係や、水季の本意を探って展開していく。水季役の古川は基本的に回想シーンでしか登場しない。主人公が何年も心の中で引きずり、亡くなってからもなお人生を一変させる女性だ。登場人物の中で最も魅力的で、画面に映っていない大半の場面でも、視聴者には常に彼女のことを想像させなくてはならない難しい役どころだ。
インタビューに答える古川琴音=田辺麻衣子撮影
就活で自覚「お芝居が特異」立教大4年でデビュー
立教大4年生だった18年に現在の所属事務所「ユマニテ」のオーディションを受けて芸能界へ入った。中学、高校で演劇部、大学でも演劇サークルに所属していたという古川は、今年1月のインタビューで、当時の心境をこう語っている。「『ドラマに出てみたい』とか、『いつか主演の映画ができちゃったりするんじゃないかな』とか、そういう漠然とした気持ちでした。『絶対に自分の人生のゴールはそこだ』とかそういう強い意志があったわけではなく、今まで打ってきた点の延長線上にある感じ」
今、その漠然とした映画の主役やゴールデンタイムのドラマ出演が現実のものとなっている。こうも語っていた。「やっぱり、自分が得意なんじゃないかなと思ったのが、お芝居だった。就職活動のときって、自分は何が得意で、何ができるのかというのを皆さん考えるじゃないですか。そのときに思いついたのが、(私は)お芝居だったので。でも、まさか本当に仕事になるとは思っていなかったです」
映画「街の上で」=イハフィルムズ提供
運も才能 19年の出会いが転機に
何事もそうだが、とりわけ芸能の仕事は「運」が必要だ。それを才能と呼ぶのなら、古川は間違いなく才能を持っている。
これまでのキャリアを振り返ると、デビュー2年目の19年が彼女のターニングポイントだったのではないだろうか。この年は撮影順に、7月に今泉力哉監督の「街の上で」(21年公開)、9月に高橋泉監督の「雨降って、ジ・エンド。」(24年公開)、そして12月には第71回ベルリン国際映画祭で審査員大賞に輝いた濱口竜介監督の「偶然と想像」(21年公開)と、名だたる監督たちの作品に立て続けに出演を果たす。
「愛がなんだ」「からかい上手の高木さん」といったヒット作を持つ今泉監督は、松尾スズキらが出演したパルコの舞台「世界は一人」での古川を見たことがきっかけで、「街の上で」の役をオファーした。古川は、東京・下北沢に暮らす若い男女5人を中心とした群像劇で、主要キャストの一人を担った。他愛もない会話とゆったりとした日常を描く今泉監督独特の「間」の演技をここで体得。
一方、撮影前に俳優と感情を排した本読みを徹底することで知られている濱口監督の現場では、1カ月近いリハーサル期間で特訓を積んだ。「たとえでんぐり返ししながらでも、勝手に口が動いてセリフが出てくるくらい」になって初めて相手役に反応でき、「カメラの前で自由になれる」と知ったという。これらの作品では、いずれも自分の生き方や恋愛に悩む等身大の女性を演じた。
「第2ステージ」の始まり
名監督の現場を経て、近年は地上波ドラマでの活躍も目立つように。つかみどころの無い魅惑的な女性を好演している。高橋一生主演の人気シリーズ「岸部露伴は動かない」(NHK)の第7話「ホットサマー・マーサ」(22年)では、高橋演じる主人公・露伴をあの手この手で刺激し、ときに狂気を感じさせるキャラクター、イブを演じた。23年のNHK大河ドラマ「どうする家康」では、重要情報を握り戦国の世を暗躍する妖艶な巫女(みこ)として強い印象を残した。
デビューから6年。24年下半期にも映画「シサム」「Cloud」「劇場版ACMA:GAME 最後の鍵」の公開も控えている。これまでを芸能生活の「第1ステージ」とするなら、独特の存在感をいかんなく発揮している「海のはじまり」は、飛躍の「第2ステージ」への序章になりそうだ。