第79回毎日映画コンクールで助演俳優賞を受賞した「ぼくのお日さま」の池松壮亮

第79回毎日映画コンクールで助演俳優賞を受賞した「ぼくのお日さま」の池松壮亮=三浦研吾撮影

2025.1.26

「ようやく取れた。嫌われてのるかと思った」 毎日映画コンクール助演俳優賞 池松壮亮「ぼくのお日さま」

2024年を代表する映画、俳優を選ぶ「第79回毎日映画コンクール」。時代に合わせて選考方法や賞をリニューアルし、新たな一歩を踏み出します。選考経過から受賞者インタビューまで、ひとシネマがお伝えします。

筆者:

佐々本浩材

佐々本浩材

撮影:

ひとしねま

三浦研吾

「本当に光栄です。ようやく取れてうれしい。(毎日映画コンクールに)嫌われてるんじゃないかと思ってました(笑い)」。映画界を引っ張る俳優の一人で、数々の賞に輝いてきた池松壮亮。意外にも、毎日映コン受賞は今回が初めてだ。

長く在籍した大手プロダクションを2年前に離れ、「新しい人と新しい映画を目指す」ことをテーマに挑んだのが映画「ぼくのお日さま」だった。自身の中では「賭け」だったというチャレンジでの初受賞。あふれ出す喜びを淡々と語ってくれた。


フィギュア学ぶ少年と少女 見守るコーチ役

「ぼくのお日さま」は20代の奥山大史監督の商業映画デビュー作。主に登場するのは、フィギュアスケートを学ぶ少年と少女、コーチの3人。自らカメラを構え撮影した奥山監督が、彼らの心の機微を淡い光と色の映像美で切り取った。

「個人的には冬を越えることがテーマの映画だと思っています。そして人生が凝縮された出会いと別れの映画。痛みの記憶を抱えて、それでも生きていくという本質的なところを切り捨てず、これだけ温かみのある作品に仕上げた奥山監督はすごいと思う」

小学6年で吃音(きつおん)のあるタクヤ(越山敬達)はアイスホッケーチームにいたが、フィギュアスケートの練習をする中学1年のさくら(中西希亜良)を見かけ、心を奪われる。池松が演じたのは、元フィギュアスケート選手で、今はさくらをコーチする荒川。タクヤのさくらへの思いに気づいてフィギュア用のスケート靴を貸し、フィギュアの練習を始めたタクヤに付き合うようになる。やがて、荒川の提案でタクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習を始めるが……。


「ぼくのお日さま」© 2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

「2人がダメだったら自分のせい」

越山はドラマに出演し始めたばかりで、中西は演技経験なし。そんな2人に奥山監督は台本を渡さず、シーンごとにセリフや状況を伝えるだけでカメラの前に立たせた。一方、台本を受け取った池松は、自身の演技に加え、現場で2人の自然な演技を引き出すことも求められた。台本は比較的シンプルで、撮影中も監督や出演者のアイデアがどんどん盛り込まれていったという。「カメラの前では、俳優の経験値としても年齢的にも、自分が若い2人を導かないといけないと思っていましたし、2人(の演技)がダメだったら自分のせいだろうと思っていました」。そんな強い覚悟で臨んだ現場だった。

「実際現場で膨らんでいった部分はかなりありました。自由で余白のあるものづくりをやらせてもらえたというのが大きかったですね。彼らはこの場面でなんて言うんだろう。芽生えてくる感情によって、映画をどんどん動かしていけた。この物語を体感している3人の関係性が高まって、奥山監督がカメラを据えて僕らの方にさえ向ければ、どこを切り取っても映画になるというようなことを目指したいと思っていました」


「キラキラした瞬間を閉じ込めてくれた」

そんな撮り方だからこそ、映像には魅力的な少年と少女の「無防備な表情」が映る。「大人から言わされたとか、ト書きがくっついているような言葉ではなく、自然に物語を体感している表情や、呼吸が見えた。日々、2人を見ながら感動してました。自分も、2人のことを考えているという時間がコーチという役を高めてくれるだろうと思っていました」

中でも、山中の湖に出かけ、凍った湖面でスケートを楽しむ場面の3人の幸せそうな表情が印象的だ。実は映画のクランクインがこのシーンだったという。「奥山監督と、前の晩に何をしたら2人がゲラゲラ笑ってくれるか考えて、やることを10個ぐらいリストアップして臨みました。この人の前ではふざけていいんだということを分かってもらおうと思って、嫌われてもいいやと、とにかく2人に話しかけた。セリフは使わない(音楽だけが流れる)シーンだったので、初対面では役名で話しかけても心が反応しないだろうと下の名で呼んでいました。カメラを構える奥山監督と4人で2日間、回しっぱなし。2人のキラキラした瞬間を切り取って、二度と戻らないあの冬の彼らの成長を物語に閉じ込めてくれたなと思います」

五輪を目指した元選手のように滑れるまで2年はかかると言われたフィギュアを半年間で形にした。「最後の方はほぼ毎日のように練習し、ギリギリ間に合ったかな。子役は滑れる子を探していて、(フィギュアの)経験がある奥山監督が自分で滑りながらカメラも回すので、ぼくも滑れた方が映画にとっていいはずと思って頑張りました。奥山監督が経験者の目でコーチっぽくない動きは全てカットしてくれているので、助けられたなあと思います」


育ててもらった映画に、何を還元できるか

米映画「ラストサムライ」で映画デビューしたのは13歳の時。「僕は映画に育ててもらった。映画によって、自分が拡張し、世界と出会ってきた感覚がある」と、映画を中心に仕事に取り組んできた。30代に入ってからは「映画に何を還元できるか」を考え、2年前には在籍していた大手芸能プロダクションを離れ、フリーになった。

「事務所にいる頃は心地よかったし、快適でしたが、ものづくりの上で制約もあった。いろいろ思うところもあったので、実験してみないとわからないと飛び出しました。組織の一人ではなく、個人として人と話をして、面倒くさがらずに、ものを作っていく。人と人が触れ合ったところに物語が立ち上がってくることをもっと目指していくべきだと思いました」と振り返る。
 

映画を作る楽しさを伝えたかった

奥山監督には、彼が大学在学中に撮った長編初監督作「僕はイエス様が嫌い」(2019年)から注目していた。監督、脚本、撮影、編集と1人で4役を務める奥山監督の製作手法は日本では珍しい。

「自分に何ができるか分からないけれども、新しい時代に向けて映画を前に進めることができるのか。どれくらいバックアップできるのか、自分の中では賭けのような気持ちでした。奥山さんという才能をこの映画でダメにしてしまうかもしれない。また未来の宝物のような2人の無垢(むく)な才能をどう導いてあげられるか。自分が教えてもらったように、2人にもみんなで映画をつくることがこんなに楽しいんだという感覚を伝えたかった」


出会いが宝 目指したいことがたくさんある

そんな思いで取り組んだ仕事で、歴史ある毎日映コンに入賞したことが、何よりうれしいと言う。越山もスポニチグランプリ新人賞に輝いた。「正直、(越山)本人は分かっていないと思います。どれだけ励まされることなのかを。もし彼が(俳優を)続けるならば、あれがあったからキャリアが変わったんだと思うはず」とほほ笑む。

25年も出演作の公開が控えている。「出会いそのものが映画の宝。誰と映画をつくり、誰とお芝居をするか。そのことが重要で、作品にものすごく反射し映り込みます。もっともっと目指したいことがたくさんあるので、新しい出会いに期待しながら頑張っていきたいと思います」

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