「ミッション:インポッシブル」より   ©1996 Paramount Pictures. MISSION IMPOSSIBLE is a trademark of Paramount Pictures.

「ミッション:インポッシブル」より ©1996 Paramount Pictures. MISSION IMPOSSIBLE is a trademark of Paramount Pictures.

2023.7.14

イーサン・ハント誕生 今見ても完璧、興奮の第1作「ミッション:インポッシブル」

5年ぶりのシリーズ新作「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」が7月21日に公開される。主演のトム・クルーズの体を張ったアクションは、作品を重ねるごとに派手になり、とどまるところを知らない。第1作から27年、イーサン・ハントはどこから来て、そしてどこへ向かうのか。ひとシネマが、シリーズ全作を解説、見どころを紹介します。最新作鑑賞前の復習にどうぞ!

鈴木隆

鈴木隆

1996年7月の公開以来、27年ぶりに「ミッション:インポッシブル」を見た。なんと、なんと完璧に面白い。全く古くさくない。時の流れを感じたのは、争奪戦となったフロッピーディスクだけ。エンタメ作品は久しぶりに見ると首をかしげることも多いのだが、「ミッション」は別物。思わず前のめりになって見入ってしまった。


トム・クルーズ初プロデュース作

見せ場の派手なアクションはもとより、だましだまされのスピーディーな展開もワクワクドキドキ感満載で、スパイ映画の王道を十二分に堪能できる。しかも、後のシリーズの見どころが凝縮されているから驚きだ。
 
アメリカのテレビドラマをベースに映画化。主演のトム・クルーズが、子供のころ見て大好きだったドラマを、初プロデュース作品としてスクリーンによみがえらせた。以降、シリーズを大事にていねいに育て上げてきたことが、これまでの作品から伝わってくる。CIA(米中央情報局)の極秘諜報(ちょうほう)部隊IMF(不可能作戦部隊)の活躍を描く大筋はドラマ版を引き継いだが、主人公イーサン・ハントはほぼ映画オリジナルのキャラクターとして作り上げた。
 

1960年代の米人気ドラマ

ちなみに、ドラマの「Mission:Impossible」は、米テレビ界で最も権威があるエミー賞で、67年、68年のドラマ部門最優秀作品賞を受賞。68年にはゴールデングローブ賞テレビドラマ部門の最優秀作品賞を受賞するなど、高い評価を受けた。
 
日本では67年から73年まで、フジテレビ系で「スパイ大作戦」として放送され、人気を得た。筆者が見ていたのは70年代に入ってからだったと思う。映画にも引き継がれたミッションの伝え方と決まり文句は、いまだに記憶に残っている。当時ちょっとした流行語になったという。
 
「おはよう、フェルプス君」で始まる指令(声は名声優だった大平透)はテープレコーダーに録音されていて、最後は必ず「例によって、君、もしくは君のメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで。なお、このテープは5秒後(自動的)に消滅する」と締めくくられて、テープは焼失したり煙を出したりする。
 
映画の「ミッション:インポッシブル」でも、オープニングとラストに登場する指令のシーンは実にしゃれている。飛行機の中でキャビンアテンダントが、映画のテープを薦める。再生すると、流れるのは映画ではなく指令と任務に関する映像だ。シンプルなシーンだが心憎い演出になっている。
 

ラロ・シフリン作曲の心躍るテーマ

心弾ませるのは、映画化シリーズでも使われるテーマ曲。音楽と共に導火線にマッチで火をつける導入シーンはおなじみだし、映画の見せ場でも聞こえてくると条件反射的に心ウキウキ、スイングしたくなる。
 
映画化されてから気づいたのだが、作曲はラロ・シフリン。「ブリット」(68年)、「ダーティハリー」(71年)も有名だが、なんといっても「燃えよドラゴン」(73年)。メリハリのきいたリズムと高揚感にあふれた楽曲は、これから何を見せてくれるのか、と期待感MAX。「ミッション:インポッシブル」でも絶妙のタイミングで挿入されている。テレビや映画の「ミッション」を見ていない人でもこの曲を知っている人は多く、音楽の力はすごいと感心した。
 

作戦失敗 CIAに追われるハント

さて、肝心の物語はプラハから始まる。プラハの米国大使館員ゴリツィンが、東欧に派遣されているCIAの諜報員リストの暗号部分を盗み、翌日夜のパーティーで本名も盗む計画を立てていた。フェルプス(ジョン・ボイト)率いるIMFの任務は、ハントらメンバーで証拠をつかみゴリツィンを捕まえること。しかし、メンバーは次々と殺害され、1人残ったハントは裏切り者の汚名を着せられてしまう。CIAの追っ手からも逃げながら、事件の真相に迫っていくハントの活躍が描かれる。
 
目に焼き付くような見せ場の連続だ。冒頭からおなじみの大胆な変装があり、暗号を盗むためにCIA本部コンピュータールームに宙づりになって侵入し、高速走行するヨーロッパ超特急TGVの車両上、強風の中で格闘し、トンネル内を追ってくるヘリコプターと対決する。
 

世界股にアクション全開

度肝を抜くアクションシーンの興奮は、1作目から全開だ。最新作まで観客の際限のない欲求に応え続け、ド派手なアクションを進化させているのは驚異的。天井から宙づりになって潜入するシーンは、見ているほうが瞬きや音を発するのを控えてしまうほど、手に汗握る緊迫感。その後の作品にも登場し、シリーズの代名詞にもなっている。
 
カメラ内蔵のメガネやガム型爆弾など小道具もたっぷり。ガム型爆弾の大きさや色合いなど笑ってしまう作りで、ユーモアもまぶしている。面白くなるものはなんでも追究するサービス精神は、当初から健在だ。プラハから米国のCIA本部、ロンドン、パリと世界を股にかけて縦横無尽に駆け巡る展開も1作目から始まっている。
 

豪華俳優陣も見どころ

監督はブライアン・デ・パルマ。アルフレッド・ヒチコック監督の影響を強く受け、「殺しのドレス」(80年)、「スカーフェイス」(83年)、「アンタッチャブル」(87年)など多くのスリラーやサスペンス、アクションで鮮烈な映像を駆使してきた。今作では、だましあいと超絶アクションをテンポよく演出した。
 
さらに、今回見て改めて実感したのは豪華な俳優陣。フェルプス役のジョン・ボイトのほか、エマニュエル・べアール、ジャン・レノ、エミリオ・エステベス、クリスティン・スコット・トーマスらがハントの敵となり味方となり、時に入り乱れて登場する。名優バネッサ・レッドグレイブの風格ある演技など、俳優を見ているだけでも存分に楽しめる。
 
また、テレビシリーズで主役だったフェルプスが、映画の中では役柄やキャラクターがガラッと変わる。テレビから映画へ、フェルプスからハントへと主人公が代わったことも分かりやすく印象付けた。
 
 


「ミッション:インポッシブル」6ムービー・コレクション
[4K ULTRA HD + Blu-ray セット] 2万5080円(税込み)
※2023年7月現在の情報です。
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
© 1996, 2000, 2006, 2011, 2015, 2018, 2023 Paramount Pictures. MISSION IMPOSSIBLE is a trademark of Paramount Pictures.
 

ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。