5年ぶりのシリーズ新作「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」が7月21日に公開される。主演のトム・クルーズの体を張ったアクションは、作品を重ねるごとに派手になり、とどまるところを知らない。第1作から27年、イーサン・ハントはどこから来て、そしてどこへ向かうのか。ひとシネマが、シリーズ全作を解説、見どころを紹介します。最新作鑑賞前の復習にどうぞ!
2023.7.13
「ミッション:インポッシブル」シリーズの魅力を深掘り徹底解説!
言わずと知れた大ヒットシリーズであり、トム・クルーズの代表作の一つでもある「ミッション:インポッシブル」。その最新作である第7作「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」が7月21日(金)に劇場公開を迎える。
27年に及ぶこれまでのシリーズの歩みは、下記の通り。
第1作「ミッション:インポッシブル」(1996年)
第2作「M:I-2」(2000年)
第3作「M:i:Ⅲ」(06年)
第4作「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」(11年)
第5作「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」(15年)
第6作「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」(18年)
第7作「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」(23年)
第8作「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART TWO」(24年予定)
ちなみに第5作「ローグ・ネイション」以降の監督を務めるクリストファー・マッカリーは「第8作で終わりではない」、トム・クルーズは「ハリソン・フォードの年齢(80歳)になるまで作り続けたい」と語っており、トムが現在61歳と考えるとあと20年弱は楽しめる可能性がある(リップサービスではなく、彼なら本当にやりかねない)。
「ゴースト・プロトコル」より
©2011 Paramount Pictures. MISSION IMPOSSIBLE is a trademark of Paramount Pictures.
シリーズの売りは、トム・クルーズのノースタントアクション
「ミッション:インポッシブル」シリーズの売りといえば、やはりトム・クルーズの「限界突破」なノースタントアクション。背筋をピンと伸ばして全力疾走する〝トム走〟はシリーズの代名詞だが、第4作「ゴースト・プロトコル」では世界で最も高いビル(2023年7月現在)であるドバイのブルジュ・ハリファの外壁をよじ登り、第5作「ローグ・ネイション」では離陸した飛行機にしがみつき、第6作「フォールアウト」ではHALOジャンプ(高高度降下低高度開傘。成層圏ギリギリの高度から降下し、地上近くでパラシュートを開く)やヘリコプターに結ばれたロープをよじ登る等々、離れ業を披露してきた。
「フォールアウト」の撮影中に足首を骨折してしまい全治9カ月と診断されるも、6週間で復帰したのは有名な話(折れた瞬間のカットをそのまま本編に採用している)。第7作「デッドレコニング PART ONE」でも、崖からバイクごとダイブしたり機関車の屋根部分で戦ったり落下しかける車両間を飛び移ったりと目を疑うようなアクションに挑んでいる。
「M:i:Ⅲ」より
©2006 Pramount Pictures. MISSION IMPOSSIBLE is a trademark of Paramount Pictures.
「人情」と「無血」がシリーズを構成するキーワードに
こうしたアクション部分が注目がされるのは当然なのだが(トム・クルーズも危険なスタントにチャレンジする理由を「観客にとにかく楽しんでほしい」と語っている)、「ミッション:インポッシブル」シリーズの魅力や特徴はそれだけではない。本シリーズは、少年ジャンプの代名詞と言われる「友情・努力・勝利」を地で行くような、エンターテインメントとしてのレールが敷かれている。キーワードは「人情」と「無血」だ。
スパイ映画といえば「007」シリーズのように一匹狼のニュアンスが強く、「ミッション:インポッシブル」シリーズも第2作まではチームに裏切られたり、そもそも単独行動をとったりと主人公イーサン・ハントのスタンドアローン感が前面に押し出されていた。しかし第3作から、明確に独自の路線を歩み始める。
イーサンは現場から退き、一般人と婚約して幸せに暮らしていたが、教え子が死亡したことで任務に復帰する――というのが本作の筋書きだが、「主人公が既婚者となる」ことで、彼の行動原理が「愛する者を守るため」に定まっていくのだ。それによって、以降のシリーズは人間くさく愛情深い主人公像が展開していく。
「フォールアウト」より
©2018 Pramount Pictures. MISSION IMPOSSIBLE is a trademark of Paramount Pictures.
一匹オオカミからチーム戦へ。そこで生まれるものとは
全作品に登場する相棒ルーサー(ビング・レイムス)の出番も徐々に増え、第4作「ゴースト・プロトコル」では「M:i:Ⅲ」での内勤を経てエージェントになったベンジー(サイモン・ペッグ)とブラント(ジェレミー・レナー)、第5作「ローグ・ネイション」ではイルサ(レベッカ・ファーガソン)といった仲間が加わった。
イーサンの妻ジュリア(ミシェル・モナハン)も継続的に登場し、第6作「フォールアウト」では、彼女を守るために別れたのちも大切に思い続けるイーサンのいちずな姿が描かれ、ドラマ面の見ごたえを担保していた。
身軽でなくなることは悪に付け入る隙(すき)を与えることにつながり、明確な弱みとなる。「M:i:III」では妻が拉致され、「ローグ・ネイション」ではベンジーが人質に取られ、「フォールアウト」でも仲間が標的になる。スパイとしては悪手なのだが、「ミッション:インポッシブル」シリーズではあえてそこを突き進む点が興味深い。
ミッションをあくまで「チーム戦」として捉え、常に協力して立ち向かうし、イーサンは超人的な身体能力を持つも決して完璧ではない。ピンチに陥った際に自分で打開するのではなく、仲間に「助けられる」シーンがほぼ必ず挿入されるのだ。
「デッドレコニング PART ONE」より
©2023 PARAMOUNT PICTURES.
世の流れに合致した時代背景の変化と、変わらないスタンスと
最新作「デッドレコニング PART ONE」の〝敵〟は暴走したAI(人工知能)だが、目的に最短で向かう相手に対し、イーサンのミッションより仲間の命を大切にする〝人情〟がAIの脅威となっていく対立構造がより明示化された。一人のヒーローが世界を救うのではなく、信じあえる仲間が結束し、秩序を守るという構造は「チームの時代」や「オープン・シェア」、あるいは「富の独占ではなく再分配」といった世の流れにも合致する。
一方で、「ミッション:インポッシブル」シリーズには変わらない良さもある。それは、流血シーンの少なさだ。イーサンは行く手を阻む者――悪漢においては殺害するし、目の前で同僚や上司・部下を失うこともある。危険な任務に挑めば心身ともに満身創痍(そうい)だ。
だが本作では、極力「血」を描かない。アクション映画にしろ漫画にしろ、時代が進むごとに「現実のシビアさ」に即したリアルな〝痛み〟の描写が共感性と結びつき、娯楽作であっても容赦ない描写がなされるものも増えてきた。
ただこと「ミッション:インポッシブル」シリーズにおいては、「フォールアウト」のトイレの戦闘シーンくらいしかがっつり血は出ない。しかも、これはイーサンではなく別のエージェントの手によるもので、それがかえって彼の人情派な側面を強めてもいる。
CG(コンピューターグラフィックス)に頼らない生身の肉体での限界アクションを前面に出すのであれば、〝痛み〟の描写を盛る方法論だってあるはずだ。だがそうしないところに、本シリーズの心意気を感じる。ゆえに「ミッション:インポッシブル」シリーズは、老若男女問わずに支持される真のエンターテインメントであり続けるのだろう。
「デッドレコニング PART ONE」より
©2023 PARAMOUNT PICTURES.
最新作は過去作への「回帰」とシリーズ大本への目配りを感じさせる
ちなみに最新作「デッドレコニング PART ONE」では、「人情」の部分がより一層作品の〝核〟になりつつ、さまざまな側面で「回帰」を感じさせる演出が施されている。第1作に登場したCIA(米中央情報局)のキトリッジ(ヘンリー・ツェニー)が再び顔を見せるし、女性のスリと組む展開は「M:I-2」を彷彿(ほうふつ)とさせ、デジタルを支配する相手にアナログで挑む展開は、本シリーズの大本である「スパイ大作戦」への目配りも感じさせる(あのカセットテープも登場!)。
オーバーテクノロジーやエネルギー資源の枯渇といった今日的な問題を絡めつつ、エンターテインメントとして王道であり続け、アクションの新たな可能性を開拓する――。「ミッション:インポッシブル」シリーズは、この先も「原点」と「進化」を両立させていくのだろう。
「ミッション:インポッシブル」6ムービー・コレクション
[4K ULTRA HD + Blu-ray セット] 2万5080円(税込み)
※2023年7月現在の情報です。
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
© 1996, 2000, 2006, 2011, 2015, 2018, 2023 Paramount Pictures. MISSION IMPOSSIBLE is a trademark of Paramount Pictures.