「M:i:Ⅲ」より  ©2006 Paramount Pictures. MISSION IMPOSSIBLE is a trademark of Paramount Pictures.

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2023.7.16

トムの肉体〝全面展開〟 上海の大ジャンプ 最狂最悪フィリップ・シーモア・ホフマン 「M:i:Ⅲ」

5年ぶりのシリーズ新作「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」が7月21日に公開される。主演のトム・クルーズの体を張ったアクションは、作品を重ねるごとに派手になり、とどまるところを知らない。第1作から27年、イーサン・ハントはどこから来て、そしてどこへ向かうのか。ひとシネマが、シリーズ全作を解説、見どころを紹介します。最新作鑑賞前の復習にどうぞ!

勝田友巳

勝田友巳

ヒーローが活躍するには、強く憎らしく、そして魅力的な悪役が欠かせない。「M:i:Ⅲ」でフィリップ・シーモア・ホフマンが演じた武器商人オーウェン・デイビアンは、シリーズ最狂の悪役ではないか。冷酷非情でサディスティック、捕まったのにニヤニヤしながら「お前の大切な人を目の前で殺してやる」などと言い放つ。
 

ハントは引退生活から現場復帰

ホフマンは「カポーティ」でアカデミー賞主演男優賞を受賞したばかりだったが、振り切ったイカれぶりが実に憎々しい。トム・クルーズとの共演は「マグノリア」(1999年)以来で、アクションでも芝居場でも息の合ったところを見せている。ハントと大乱闘の揚げ句、あっけない最期を遂げたのも印象的だった。
 
さて「M:i:Ⅲ」のハントは一線を退いて教官となり、表向きは地下鉄職員として働く一般人として登場する。真の姿を知らない婚約者のジュリア(ミシェル・モナハン)との結婚も間近に控えている。ところがデイビアンを監視していた教え子がベルリンで拉致され、ハントが救出に向かうことになる。教え子の身柄は確保したのに、頭に仕掛けられた小型爆弾が爆発、ハントの腕の中で死んでしまう。ハントはデイビアンが「ラビットフット」の流通をもくろんでいると知り、情報を元にバチカン市国に潜入、まんまとデイビアンを拘束した。
 

ベイブリッジの激戦

シリーズおなじみの〝つり下げ方式〟でバチカンに侵入し、デイビアンに変装して作戦を遂行するアクションも見応え十分だが、これはまだ小手調べ。護送中のデイビアンを奪還に来た敵との戦いが、序盤の見せ場だ。ハントはIMFにデイビアンとの内通者がいると気付くが時既に遅し。橋を渡っているところを空襲される。激しい攻撃に車両が吹き飛ばされ道路が崩れ落ち、ハントは必死にデイビアンを追うものの取り逃がしてしまう。
 
橋の上での戦闘という設定はアクション映画に珍しくないものの、ここでは機銃掃射、銃撃戦、果てはミサイルが飛んでくる。クルーズは道路の裂け目を飛び越えながら走り、吹き飛ばされた大型トラックにつぶされそうになる。次から次へとたたみかける豪快さ。
 
作家性の強かった前2作をホップとすれば、クルーズの肉体を前面に押し出したこの第3作はステップと位置づけられるかもしれない。手慣らし足慣らしを済ませ興行の結果も出して、保険会社も黙らせたクルーズはいよいよアクションの限界に挑み始める。
 

最愛の女性が人質に

狡猾(こうかつ)なデイビアンは予言通りジュリアを誘拐し、48時間以内にラビットフットを入手して引き渡せと要求する。上海でのクライマックスも、目の覚めるアクションのつるべ打ち。ラビットフットが保管された警戒厳重なビルに屋根から侵入すべく、離れたビルからワイヤを使ったスイングの大ジャンプ。時間切れが迫る中、引き渡し地点に向かって路地を全力疾走。シリーズのトレードマーク、走るハントを追いかける移動ショットの鮮やかなこと。
 
監督はJ.J.エイブラムス。これが初の映画監督作だ。ドラマのスパイアクション「エイリアス」を見たクルーズが気に入って抜てきした。後に「スター・トレック」(09年)、「スターウォーズ フォースの覚醒」(15年)など大作を任されるだけに、「M:i-Ⅲ」でも堂々たる演出だ。
 

メンバー定着 ベンジー初登場

第1作「ミッション:インポッシブル」で登場したハントはIMFの若手だった。それから10年、ジュリアと落ち着いた生活を送るハントには、世界平和のほかにも守るべきものができている。といって世界を人任せにして自分だけ幸せになることも納得できず、ジュリアか使命かで葛藤することになる。ハントは前2作になかった人間的奥行きを持つのである。
 
そしてここまで毎回、違うエージェントと組んできたハントのチームは、この作品あたりから常連が定着し始める。天才ハッカーのルーサー(ビング・レイムス)こそ1作目からの付き合いだが、技術担当のベンジー(サイモン・ペッグ)はIMFの内勤としてここで初登場だし、ジュリアは以降の作品でもハントの精神的支柱となる。「より良い世界」と同じくらい「友情」も大事になっていくのだ。
 

お騒がせトム 若気の至り?

スクリーンの外でも、話題を振りまいた。この時期のクルーズは迷惑セレブ。サイエントロジーに入れ込むあまり医学界を批判したり、ケイティ・ホームズとの交際に舞い上がってテレビ番組で奇行に及んだりとタブロイド紙の標的となり、不人気投票でも上位に入る。おかげで一時、パラマウントの契約を打ち切られた(後に再契約)。
 
大がかりな中国ロケをしたものの、ハントが駆け抜ける家の軒先に下がった洗濯物がみすぼらしい、貧しさを強調していると中国政府が国内上映に難色を示す一幕も。結局無事上映され、「ローグ・ネイション」では中国のアリババが出資することにもなった。
 
シリーズの方向性を決定づけ、クルーズのアクション探究に拍車がかかった「M:i:Ⅲ」。シリーズにとってもクルーズ本人にとっても、そして映画史的にも、エポックメーキングな作品かもしれない。
 
ところで「ラビットフット」って、いったい何だったんだ?
 
 


「ミッション:インポッシブル」6ムービー・コレクション
[4K ULTRA HD + Blu-ray セット] 2万5080円(税込み)
※2023年7月現在の情報です。
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
© 1996, 2000, 2006, 2011, 2015, 2018, 2023 Paramount Pictures. MISSION IMPOSSIBLE is a trademark of Paramount Pictures.
 

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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