「ジョン・ウィック:コンセクエンス」のメガホンを取ったチャド・スタエルスキ監督=内藤絵美撮影

「ジョン・ウィック:コンセクエンス」のメガホンを取ったチャド・スタエルスキ監督=内藤絵美撮影

2023.9.21

元のタイトルは「葉隠」 「ジョン・ウィック:コンセクエンス」の超絶アクションを貫く日本的美学とは:チャド・スタエルスキ監督インタビュー

最新主演作「ジョン・ウィック:コンセクエンス」が9月22日(金)に公開されるキアヌ・リーブス。来日プロモーションはかなわなくなったものの、公開を前に「ジョン・ウィック」シリーズの紹介、俳優としてのキャリアに人となりなど、全方位的にキアヌの魅力に迫ります。

勝田友巳

勝田友巳

「ジョン・ウィック:コンセクエンス」はアジアのアクションスターをそろえ、日本を舞台に撮影。シリーズを一貫して手がけてきたチャド・スタエルスキ監督は「日本文化なしに『ジョン・ウィック』はない」とまで日本を敬愛し、アクションを貫く美学について熱く語るのだった。
 


 

キアヌ・リーブスと「ものの哀れ」を語り合った

「第4作の準備稿のタイトルは『HAGAKURE(葉隠)』だった」。言わずと知れた、江戸中期の武士の心得を説いた書。「武士道というは、死ぬことと見つけたり」で有名な、あれである。シリーズは第1作から日本的な要素が感じられたが、スタエルスキ監督は「第4作ではより強く盛り込もうと考えていた」という。
 
「『葉隠』や宮本武蔵の『五輪書』を何度も読み直して、ずいぶん調べた。そして『葉隠』は、サムライの間だけに通じるひそかな規範だと理解した。もちろん、武士道がロマンチックだとは思わない。いろいろ問題はあるし、美化している部分もあると思う。それでも、彼らはより高次のものに憧れていた。そこに興味を持ったんだ」
 
キアヌ・リーブスも「葉隠」を読んでいたそうだ。「何年か前に、日本の帝国ホテルでウイスキーの響を飲みながら、キアヌと第4作について話し合った。『葉隠』を、彼もクールだと感じていて、『渋み』『ものの哀れ』『わびさび』といったことについて、随分話し込んだ。そうしたことの全部が、映画の一部になっているよ」
 

「ジョン・ウィック:コンセクエンス」より Ⓡ, TM & © 2023 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

友人同士 でも戦わなくてはならない

愛妻が残した犬を殺されたことから始まったジョン・ウィックの復讐(ふくしゅう)は次々と連鎖して、現れる強敵を次々と撃破してきた。「最初から武士道の要素はあった」と振り返る。
 
しかし第1作は初めての監督作とあって、ジョンの復讐をシンプルに描くにとどまった。「第2作までは善玉と悪玉の戦いで、まあうまくいったけど、自分ではあまり好きではない」と明かす。「チャンスがあるなら違うことをやりたかった。第4作では友人同士が戦うことになる」
 
「コンセクエンス」でジョンは、裏社会を支配する「主席連合」全体を敵に回す事態に至り、主席連合はジョンの旧友ケイン(ドニー・イェン)を刺客に放つ。ジョンは大阪コンチネンタルホテルの支配人シマヅ(真田広之)に助けを求めた。ケインは引退していたが、娘を人質に脅されて指令を受け入れ、シマヅは友情のために、主席連合に弓を引く。
 
「ケインとシマヅとジョンは近しい友人だが、違う立場になってしまい、やむを得ず殺し合う。しかしそれぞれに理由があって、誰が良いとか悪いとかは問題じゃない。全員が正しい」。互いに敬意と尊厳を持って戦う姿は、サムライのイメージの反映だ。
 

武道歴40年 言葉を超えて通じ合うもの

自身の格闘家としての体験も反映されている。10歳で柔道を始め、日本を何度も訪れて講道館の試合にも出場。柔術や空手など、多くの武道も学んだ。「武道仲間とは他の友だちとは違ったやり方で通じ合えた。戦うことの意義、勝敗の重圧などを言葉にすることなく理解し合う。戦った後に敬意と友情も感じていた」
 
ケインとシマヅは、刀を武器に一騎打ちとなる。アジアのアクションスターの対決は、映画中盤のクライマックス。「自分でも一番好きなファイト」。ただ「チャンバラが良かったからではない」という。「ケインもシマヅもヒーローで、観客は2人とも好きになっているから、どちらに勝ってほしいか分からなくなる。どちらが倒れても悲しい。そこがいい」
 

アニメ、マンガ、そして黒澤映画

「日本のアニメやマンガ、映画の大ファン。黒澤明監督も大好き」と強調する。「黒澤みたいに撮りたかったし、撮ろうとしている。彼の伝記本を何度も読み直して、黒澤映画に特有の優れた構成と静止画、火や水、雨や風をどう取り入れるかを研究した。黒澤映画と比べながら『ジョン・ウィック』を見たら、どのシーンも黒沢をパクっていると分かると思うよ」
 
アニメでは「カウボーイビバップ」の渡辺信一郎、中国のチャン・イーモウ、香港のウォン・カーウァイといった監督の名前も挙げる。「ジョン・ウィック」とは方向が違うようだが……。
 
「確かに。でもつながっている。細部をおろそかにしない。チャン・イーモウの映像のルックや色彩、ウォン・カーウァイの動きと静かさ。何より、彼らの映画は美しい。『ジョン・ウィック』が楽しいだけのアクション映画だってことは分かっている。でもサブテキストで、多くのことを表現しているんだ。アクション映画は騒々しくてうるさくて、そこにエネルギーがあるんだけれど、それでも美しくしたい。そうできると思っている」
 
「アジアや日本の文化と触れる経験がなかったら、『ジョン・ウィック』はなかった。第1作はニューヨークで撮ったんだが、改めて見直したら1970年代のスティーブ・マックイーン映画であり、サムライ映画だと思ったよ」
 

ネタ帳手放さず世界を旅する

シリーズの見どころは、見たこともないアクション場面。スタントマンとして映画界に入り、多くの撮影現場にアクションのコーディネートやデザイン、振り付け、アクション監督として携わった。「アクション映画の監督も、自分でアクションができる人は少ないだろう。自分は全部分かっている」。そして観察を怠らない。
 
「今もアクションのアイデアを書きためたノートを持ち歩いているよ。ぼくはたくさん旅をする。東京に来る前は広島や長野に行ったし、その前は香港、韓国、エジプト、イスタンブールを回ってきた。旅をして人に会い、武道の多くの師範から教えを請う。本をたくさん読み、アニメや映画も多く見る。自宅の道場で毎日2時間、柔術を教えている。創造性は経験から生まれると思っている」
 

「ジョン・ウィック:コンセクエンス」より

アイデアを実現するのは準備とスタッフ

アクションのアイデアを実現するのは、優れたスタッフと入念な準備だという。「コンセクエンス」には、パリの凱旋(がいせん)門の周りで数十台の車を巻き込んだ大がかりなアクション場面がある。わずか「9日で撮った」という。「ただし、準備に4カ月」
 
「アイデアが出たら、どうやって実現するか、多くのパートと長い時間話し合う。全部のシーンを細かく分ける。スタントマンと一緒に、数台の車のアクションを試してピースを組み立てる。一方で、あらゆる角度から凱旋門を撮り、その周りを車で走って映像を集め、素材をデジタル化する。実際の撮影はベルリンの空港で、凱旋門の一部は実際に建てた。セクションごとに2時間リハーサルして5分撮る、の繰り返し。1000人からのクルーが働いた。そうして撮った素材を組み合わせる。とても複雑だったが、優秀なスタッフのおかげだね」。武道家らしく、端々に謙遜がにじんでいた。
 
「ジョン・ウィック:コンセクエンス」は9月22日日本公開

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。