毎日映コン アニメーション部門/ドキュメンタリー部門/特別賞 選考経過・講評

毎日映コン アニメーション部門/ドキュメンタリー部門/特別賞 選考経過・講評

2024.1.30

心揺さぶる過激なアート 大藤信郎賞「君たちはどう生きるか」 毎日映コン・選考経過と講評

毎日映画コンクールは、1年間の優れた作品と活躍した映画人を広く顕彰する映画賞です。終戦間もなく始まり、映画界を応援し続けています。

ひとしねま

ひとシネマ編集部

第78回毎日映画コンクールは、各部門で2段階選考を行った。「作品」「俳優」「スタッフ」の各部門は、映画評論家ら約70人の選考委員による投票で1次選考を行い、「アニメーション」「ドキュメンタリー」の両部門は、推薦・公募で集まった作品から1次選考委員による討議で、それぞれ候補作を決定した。2次選考は各部門の選考委員が討議し、受賞作・受賞者を決めた。外国映画ベストワン賞は、選考委員による2回の投票で決定した。田中絹代賞は、特別賞とともに諮問委員会で選ばれた。各賞の2次選考の経過と、選考委員による講評を紹介する。

【アニメーション部門】

応募作は30作品。他の候補は「I stitch my skin to the ground」「Our Pain」「URAHARA-TEASER」「丘にいるft.VX−β」「オクトポリス-プロローグ-」「己踊り」「520」「駒田蒸留所へようこそ」「Sewing Love」「ゾウのかたち」「太陽が水を汲んでいる」「月見ごこち」「並んだLAND」「ニンジンは待ってくれない」「HIDARI」「BLUE GIANT」「北極百貨店のコンシェルジュさん」「マイスクール」「Magnified City」「みじめな奇蹟」「Monk SEISHIN」「屋根裏のラジャー」「ユーフラジー=モンタージュ」「来世 ユニコーンの首筋後ろのホクロになりたい」「La nuit des illusions(迷走の夜)」「Return」

候補作の長編の実験性、挑戦が指摘され、短編作品は議論の対象外に。「北極」に「アニメの楽しさを簡明に伝えた」、「君たち」は「巨匠が作りたいように作っている」、「BLUE」は「音楽と映像を融合させた」、「ラジャー」に「昔のジブリ的な王道の作りに新しい技術を導入」、「アリス」は「若者の気持ちを言葉と映像で表現」。一方で各作品が欠点を指摘され、議論は平行線。投票ではアニメ賞「BLUE」2、「アリス」「北極」「ラジャー」各1、大藤賞「君たち」4、「ラジャー」1。討論を続けたが、「作家性ある女性を」「アニメの枠を超越」「若手に水準の高さを見せたい」など議論百出。再度投票し、アニメ賞は「アリス」4、「北極」1、大藤賞は「君たち」4、「BLUE」1。

アニメーション映画賞「アリスとテレスのまぼろし工場」 心うごめかす止めようのない思い


「アリスとテレスのまぼろし工場」©新見伏製鐵保存会

【講評】心に刺さる言葉の魔術で数々のヒットアニメ作品の脚本を担当してきた岡田麿里が、監督として挑んだ2作目である本作は、監督自身が執筆したオリジナルストーリーの小説を原作とする物語である。変化が許されない町に生きる若者たちの安寧と鬱屈、諦観と衝動、そして止めようのない恋心が狂気と化して世界を変えていく様子が、圧巻の映像表現で定評のあるアニメスタジオMAPPAの手によって現象する。行儀よく無難に生きる若い観客にはもちろん、変化に臆病になっているかつての若者たちにとっても、映画を見終わった時、心の奥にうごめく何かに気づき、その思いを抱きしめたくなる、そんな映画であった。岡田監督の次回作にも大いに期待したい。(須川亜紀子)

大藤信郎賞「君たちはどう生きるか」 踏み込んだ表現ためらわず



「君たちはどう生きるか」©︎2023 Studio Ghibli

【講評】実験的で芸術性の高いアニメーション作品に贈られる大藤信郎賞。実験的というのは、観客がついて来られないのを承知で、踏み込んだ表現をするということ。「君たちはどう生きるか」は圧倒的に実験的で芸術性の高い作品だった。観客はストーリーを追って感情を揺さぶられるのではなく、映像に隠されたメタファーを読み解こうとする。それは美術館でアート作品を鑑賞するのと同じ思考体験である。宮崎駿監督は何度もこの賞を受賞しているが、今回の受賞も功労賞ではなく、2023年の日本のアニメーション映画の中で最もラディカルに攻めた作品と言っても過言ではない。この作品を大藤信郎賞に選ばない理由が見当たらない。(平林勇)

【アニメーション部門 2次選考委員】
岡本美津子(東京芸術大学副学長、同大学院映像研究科教授)、須川亜紀子(横浜国立大学大学院教授)、高瀬康司(アニメーション研究・批評)、平林勇(映画監督)、増當竜也(映画文筆)
 
【1次選考委員】原口正宏、田中大裕、藤津亮太、勝田友巳

【ドキュメンタリー部門】

候補は「劇場版ナオト、いまもひとりっきり」「国葬の日」「キャメラを持った男たち 関東大震災を撮る」「ケアを紡いで」「絶唱浪曲ストーリー」「チョコレートな人々」。

「生きる」に「市民と弁護士が主人公となり、司法がまともに働いたレアケースの記録」、「ヤジと民主主義」がないのが残念との指摘。「ナオト」に「原発回帰傾向への有効な反論」、「浪曲」は「人の生き死に、次世代への継承を考えさせられた」、「チョコ」は「真の共生に取り組んでいる」などと推す声。一方「生きる」は「解説的」、「ナオト」には「監督自身が出過ぎ」、「浪曲」は「主人公の技量不足で弱い」などの反論も。投票で「生きる」3、「浪曲」2。

ドキュメンタリー映画賞「『生きる』大川小学校 津波裁判を闘った人たち」真実を明らかに 胸をつく執念



「『生きる』大川小学校 津波裁判を闘った人たち」©2022 PAO NETWORK INC.

【講評】東日本大震災のあの日。石巻市の大川小学校では、津波により74人もの子どもたちが犠牲になった。学校としては最大の犠牲者数だ。なぜ学校は裏山ではなく危険な三角地帯に向かう判断をしたのか。あのとき、一体何があったのか。本作品は学校、行政の対応に不信感を抱いた親たちが、自ら検証、撮影し続けた記録をもとに構成されている。なぜ子どもたちは死ななければならなかったのか――。記録に残された息遣いから感じられる親たちの悲痛な叫びと、なんとしても真実を明らかにするのだという執念が胸をつく。圧倒的不利と言われた裁判で画期的な勝利をつかんだ過程も貴重な記録だ。映画として、広く後世に伝え続けていくべき、意義のある作品だ。(城戸久枝)

【受賞インタビュー】
ドキュメンタリー映画賞「『生きる』大川小学校津波裁判を闘った人たち」寺田和弘監督 〝作る〟より〝伝える〟「報道的な中立離れた遺族目線で」

【ドキュメンタリー部門 2次選考委員】
金平茂紀(ジャーナリスト)、城戸久枝(ノンフィクション作家)、ジャン・ユンカーマン(ドキュメンタリー映画監督)、谷岡理香(メディア総合研究所所長)、鈴木隆(映画評論家、映画ライター)
 
【1次選考委員】佐藤寛朗、野村正昭、勝田友巳

特別賞 鈴木敏夫  世界アニメけん引40年



鈴木敏夫=宮本明登撮影

【講評】「風の谷のナウシカ」を端緒として、宮崎駿監督や高畑勲監督らと人情味あふれる関係を築き、約40年にわたり日本と世界のアニメーション映画をけん引してきた。プロデューサーを担った作品のうち「千と千尋の神隠し」「もののけ姫」「ハウルの動く城」「崖の上のポニョ」の4作品が、歴代邦画興行収入ランキングの上位10作品に入るという偉業を成し遂げている。最新作「君たちはどう生きるか」では、宮崎監督10年ぶりの新作であること以外にほとんど事前情報を出さない、非常に冒険的だと思われる宣伝手法に挑みつつも、国内外で成功を収めた。日本を代表する映画プロデューサーとして、スタジオジブリの長年の経営者として、敬意を表したい。(三浦啓一)


【選考経過・講評】
作品部門 日本映画大賞「せかいのおきく」 選考委員全員が推した
 
■俳優部門/田中絹代賞
女優主演賞 杉咲花 魔術に近い俳優の仕事
男優主演賞 鈴木亮平 演技の深淵に近づく一歩
女優助演賞 広瀬すず 難役を伸び伸び演技派へ
男優助演賞 宮沢氷魚 「龍太」と恋に落ちた
 
田中絹代賞 薬師丸ひろ子 時代駆け抜け永遠不滅
 
スポニチグランプリ新人賞 サリngROCK 映像でもっと見たい
スポニチグランプリ新人賞 アフロ 役を生む表現者の本領発揮
 
■スタッフ部門 監督賞 石井裕也「月」覚悟感じる

ライター
ひとしねま

ひとシネマ編集部

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