©新見伏製鐵保存会

©新見伏製鐵保存会

PRワーナーブラザース映画、MAPPA

2023.9.13

恋って「イタイ」ものらしい。思わず涙を流してしまった。「アリスとテレスのまぼろし工場」

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

堀陽菜

堀陽菜

「希望とは、目覚めている人間が見る夢である。」
 
有名な哲学者アリストテレスが残した名言の一つである。では、希望を持つことができないとはどういうことなのか……。
周りから完全に遮断された閉鎖的な世界で、変わることを禁じられた人々が「生きよう」とする世界。映画「アリスとテレスのまぼろし工場」について語っていく。
 

変化することを禁止

14歳の菊入正宗はいつものように仲間たちと普通の毎日を過ごしていた。ある日、町の製鉄所爆発事故により町が一変。空に謎のひび割れができ、時が止まってしまった。再び町が元に戻った時に支障をきたさないよう、変化することを町民一同禁止し、正宗たち学生は〈自分確認票〉を記入し続ける毎日を過ごす。
「変化は悪」という世界で、正宗たちは終わりの見えない14歳の冬を過ごすことになった。

 
変化のない毎日はさぞ退屈だろう。いつか元に戻ることができると信じていても、このおかしくなってしまった世界にいつ終わりが来るのだろうか、考えて途方に暮れる。そんなある日、クラスメートの睦実から「退屈、根こそぎ吹っ飛んでっちゃうようなの見せてあげようか。」と製鉄所の立ち入り禁止区画である第五高炉に案内される。そこにはまるで野生のオオカミのような少女が生活していた。正宗は少女を「五実」と名付けお世話に協力するようになる。
 
物語の冒頭、私は頭の中が「?」でいっぱいだった。ファンタジーな世界感なのかと思えば正宗たちの生活はごく普通で、私自身が物語にしがみついていくのに必死だった。とりあえず理解できたのは「この世界では変化してはいけない」ということ。恋、怒り、悩み、そして将来の夢・・・・・・心を突き動かす変化はいろいろあるが決して変えてはいけない。正宗の生きる社会が閉鎖的に感じたと同時に、コロナ禍の生活を少し思い出してしまった。
 

恋って、最大の感情動揺だ

だが、人は生きている限り常に感情が働く生き物だ。世界の時間が止まってしまっても正宗たちの心の成長は止まることはない。それは、まぎれもなく生きている証拠である。恋だって例外ではない。恋って、最大の感情動揺だ。
正宗がある少女に恋をした。何年もの間クラスメートとして過ごしてきた相手に対して、初めて気が付いた恋心。いや、もしかすると今までは気付いていなかっただけかもしれない。そんな正宗が感じた恋は「痛い」らしい。恋って「イタイ」ものらしい。
 

心は成長していた

そして正宗のクラスメート・仙波は将来の夢を見つけた。それは、世界がおかしくなり何度目かの14歳の冬で初めて見つけた夢である。仙波は「変わることを禁じられた世界でなければ持つことのなかった夢だ」と語っていた。たとえ変わることが悪とされた世界でもはっきりと彼の心は成長していた。生きるとは、見たもの、聞いたもの、感じたもの全てに心を動かすことであり、感情が動いているからこそ生きていると感じられるのだと私は思った。
 
時が止まり町中の人々の成長が止まっている中、第五高炉に閉じ込められている五実だけはすくすくと成長していた。そして五実は正宗に対する恋を知ってしまう。しかし五実の恋の衝動が空の謎のひび割れを大きくしてしまう。五実の心が大きく動くことで製鉄所事故から狂ってしまった町の謎がだんだん明らかにされていく。そして、冒頭から私が感じていた「?」のほころびがひもとかれていった。思い返せば冒頭から狂い始めた世界のヒントがちりばめられていた。その世界の真実が分かった瞬間、私は思わず涙を流してしまった。

 

希望とは、目覚めている人間が見る夢である

この物語の脚本・監督を手掛けた岡田麿里の「人間の心の奥底にある弱さから目をそらさずに鮮明に描く」というコメントを見つけた。この「アリスとテレスのまぼろし工場」はまさに、そんな人間の純粋かつ率直な感情が描かれた作品だ。作中に登場する、狂った世界を守ろうとする大人をはじめとした多くのキャラクターたちの心には、きっと「生きたい」という純粋な気持ちがあるからだろう。世界が狂い始めて、初めてあらわになった人間の姿だった。
 
生きているから好きな人に「好き」って伝えられる。
生きているから将来に希望の夢を追うことが出来る。
冒頭に書いた「希望とは、目覚めている人間が見る夢である。」ということだ。
 
劇中の世界で動き始めた心の変化はこれからどんな未来を創るのだろうか。それを、物語が終わった今でも考え続けさせられる。
自分の欲望や願望、それをすべて受け入れてあげられるような自分でありたい。それがどんな結果に繋がろうとも、あなた自身の物語は動き続けるとこの作品は教えてくれる。ぜひ、自分の心に嘘をつかず見てほしい作品である。

ライター
堀陽菜

堀陽菜

2003年3月5日、兵庫県生まれ。桜美林大学グローバルコミュミュニケーション学群中国語特別専修年。高校卒業までを関西で過ごし、大学入学と共に上京。22年3月よりガールズユニット「MerciMerci 」2期生として活動開始。
好きな映画は「すばらしき世界」「スピードレーサー」「ひとよ」。幼少期から兄の影響で色々な映画と出会い、映画鑑賞が趣味となる。特技は14年間続けた空手。

この記事の写真を見る

  • ©新見伏製鐵保存会
  • ©新見伏製鐵保存会
  • ©新見伏製鐵保存会
  • ©新見伏製鐵保存会
  • ©新見伏製鐵保存会
  • ©新見伏製鐵保存会
さらに写真を見る(合計20枚)