じか火で肉を焼く木更津名物弁当

じか火で肉を焼く木更津名物弁当

2023.6.03

子供の頃ごちそうだった木更津のソウルフードを事業継承したわけ 

3度の飯より映画が好きという人も、飯がうまければさらに映画が好きになる。 撮影現場、スクリーンの中、映画館のコンフェクショナリーなどなど、映画と食のベストマリッジを追求したコラムです。

宮脇祐介

宮脇祐介

「子供の頃父の配達について行って、買ってもらった浜屋のバーベキュー弁当はごちそうで、弟と分け合って食べていました」。現在、実家の米屋・泉屋を継ぎ、吟米亭浜屋のフランチャイズも展開している代表取締役の泉雅晴さんは懐かしそうに振り返った。

取材の日もバーベキュー弁当あさり飯のロケ先への注文があった
 

映画館があったのは木更津だけ

この店のある千葉県の木更津は江戸時代天領だった。南房総の物産の集積地で江戸までの定期便が発着した。泉さんの家は江戸との商いをやっていた。その頃から米問屋を営んでいたというのだ。
 
1968年、君津に製鉄所ができてさらに街に人があふれた。「昔この辺りで映画館があったのは木更津だけだった」と言う。「新日鉄のあった北九州市から多くの人が引っ越してきた。おばさんが『しぇからしか』とかどなっていて。ラーメンも茶色のしょうゆではなく白いスープの豚骨ラーメンを食べている。それがかなりのカルチャーショックでした」とまだ昭和の地理感覚の世界観が狭い頃の思い出話をしてくれた。
 

そごうさんに頼まれて

そんな泉さんがなぜ浜屋を継ぐことになったのか?
「当時、浜屋にお米を納入していました。木更津そごうに入っていた浜屋が廃業をすると言うので、そごうさんに頼まれて2000年4月に事業継承することにしました」。大学でたまたま食品工学を学んでいて、卒業後は食品の商品開発の仕事をしていた。家業を継ぐのでその仕事は辞めたが、食品業界にいる友達も多くいろいろ教えてもらったりして何とか始動した。浜屋の社員もそのまま雇っていたので、「その人たちにいろいろ教わったりもした」そうだ。
 
しかし、その3カ月後、依頼先のそごうが破綻する。翌年近くのジャスコに店を移すも、商売はなかなか軌道に乗らなかった。代々やっていた家業の米屋では経験したことのない苦労だった。やっと3年やって何とかなるようになり、元々米屋をやっていた文京店に本部とセントラルキッチンを置いた。
 
木更津市、君津市と富津市には6カ所のスタジオの他、アカデミアホールやオープンセットもあるのでロケ弁の注文が特に多い。前出の「バーベキュー弁当とあさり飯がセットで申し込まれる事が多い」そうだ。「俳優や芸能人がいるのが普段のことだ」と感じているとも言う。「有名人が食べるロケ弁だからといって特別な事はしない」というのが浜屋流だ。ちなみにあさり飯は昔からの木更津駅名物の駅弁だった。

あさり飯
 

ソウルフードを消してはならない

木更津出身の氣志團・綾小路翔が大ファンだとラジオで公言したり、テレビ番組に取り上げられるようになったりしたことでバーベキュー弁当が一躍全国的な大人気となった。
 
「浜屋の女将さんがつぎ足し守ってきたバーベキュー弁当のタレを鍋ごと渡してくれたとき、木更津のソウルフードを消してはならないと思ったことが今に続いている」と話す泉さん。
 
普段はもちろんのこと、ゴールデンウイークやお盆の帰省客に特に懐かしいとの思いから、多くの人々が買い求めに来るというバーベキュー弁当。泉さんが子供の時ごちそうだと思っていたものを偶然事業継承したというのは奇跡以外の何物でもないのだなあとその偶然に、弁当を食べてみてさらに感謝するのでした。
 

☑人気ロケ飯

バーベキュー弁当
 
1962年発売、木更津の味「浜屋のバー弁」で親しまれたソウルフード。店に近づくと香ばしいじか火で肉の焼ける匂いが漂ってくる。つぎ足しつぎ足しの秘伝のタレがしみたご飯がまたおいしい。冷えていても、なおさらご飯の味わいが増してくる。当然米屋を営んでいるので米へのこだわりは十二分。地元のおいしいお米のみを使っている。バーベキューの名称は、肉が高級だったころ、焼いた肉のことを総称していたことから付けている。パッケージは皆さんもご存知じだろう、木更津に伝わる狸(たぬき)の腹つづみ伝説で有名な証誠寺(しょうじょうじ)の狸。

ライター
宮脇祐介

宮脇祐介

みやわき・ゆうすけ 福岡県出身、ひとシネマ総合プロデューサー。映画「手紙」「毎日かあさん」(実写/アニメ)「横道世之介」など毎日新聞連載作品を映像化。「日本沈没」「チア★ダン」「関ケ原」「糸」「ラーゲリより愛を込めて」など多くの映画製作委員会に参加。朗読劇「島守の塔」企画・演出。追悼特別展「高倉健」を企画・運営し全国10カ所で巡回。趣味は東京にある福岡のお店を食べ歩くこと。

カメラマン
宮脇祐介

宮脇祐介

みやわき・ゆうすけ 福岡県出身、ひとシネマ総合プロデューサー。映画「手紙」「毎日かあさん」(実写/アニメ)「横道世之介」など毎日新聞連載作品を映像化。「日本沈没」「チア★ダン」「関ケ原」「糸」など多くの映画製作委員会に参加。朗読劇「島守の塔」企画・演出。追悼特別展「高倉健」を企画・運営し全国10カ所で巡回。趣味は東京にある福岡のお店を食べ歩くこと。

新着記事