©Number 9 Films  Living Limited

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2023.8.20

生きるとはそれだけなのだろうか?「生きる LIVING」のエッセイを書いたダンサーに元キネマ旬報編集長は問いかけた

ひとシネマには多くのZ世代のライターが映画コラムを寄稿しています。その生き生きした文章が多くの方々に好評を得ています。そんな皆さんの腕をもっともっと上げてもらうため、元キネマ旬報編集長の関口裕子さんが時に優しく、時に厳しくアドバイスをするコーナーです。

関口裕子

関口裕子

Rhythm

Rhythm

ダンサーのひとシネマライターRhythmさんが書いた映画コラムを読んで、元キネマ旬報編集長・関口裕子さんがこうアドバイスをしました(コラムはアドバイスの後にあります)。

映画とは見るたびに新しい発見があるもの。歳を重ねるたびにその思いは一層強くなる。私がそう感じたのは、最近になって見直したルキノ・ビスコンティ監督の『ベニスに死す』だ。
 
ティーンエイジャーの頃は、アッシェンバッハ教授(ダーク・ボガート)が気になっている美少年タッジオ(ビヨルン・アンドレセン)に目が行き、耳目の集め方を覚えた彼がそのパワーを誇示する様子にゾクゾクさせられた。30代後半になって見たときはタッジオ親子と教授を取り巻く社会情勢が気になり、40代後半で見たときはアッシェンバッハ教授が自分の老いに涙するさまに共感して号泣した。
 
50代になって見ると、40代で感じたアッシェンバッハの涙の解釈は間違いではないが、正解ではないように感じられた。人はその年代ごとに老いについての解釈があり、たとえ人生の終わりが見えたとしても、そこにあるのは諦めや悲観だけではない。そんなふうに思えたのだ。
 
さて「生きる LIVING」。Rhythmさんは、生きるということを「自分のこの世での役割や存在意義に従い行動し、他人に感謝される人間であること」ではないかと書いている。「そうした行動により、この世に残せるものが生まれ、最期の時を迎える際に『死』を惜しまれる存在になるのです」と。
 
確かに、「感謝」され、「惜しまれる」存在になることは、人間の欲するもののひとつだ。でも人が生きるとはそれだけなのだろうか? 私にとってこのコラムはむしろそういう疑問をていしてくれるものとなった。
 
同時に、映画の主人公ウィリアムズ(ビル・ナイ)のこととして書いているが、もしかするとこれは28歳のRhythmさんがどう〝生きたいか〟を綴った記録なのかもしれない。そんな気さえしてきた。まさにRhythm版〝僕はどう生きるか〟とでもいうような。
 
描写力のあるRhythmさん。だからこそ、いまの年齢で向き合った「生きる LIVING」を、彼の言葉で、感じたままに、型にはめることなく綴ったコラムを読みたい。そんなふうに思わせた。

Rhythmさんのコラム

現在、公開中の「生きる LIVING」。1952年に公開された黒澤明監督の「生きる」がイギリスを舞台にリメークされた作品です。脚本を手がけたのはノーベル文学賞受賞作家のカズオ・イシグロ。末期がんの宣告をされた、お堅い公務員ウィリアムズ。彼が残りの人生をどう生きていくかがこの物語では描かれます。
 

最期を知り、欲望を満たそうとするが

ところで、皆さんは「死」について考えたことはありますか? 自分の命があとわずかだと知った時どうしますか? 誰と何をして過ごしますか? 私は27歳の若者ですが、子供の頃から「死」について考えることが多かった。当時子供ながらに「死」に対する恐怖心が強かったため、「死」について考えては夜眠れなくなっていました。そういった経緯から今回この作品に興味を持ちました。
 
私は「死」について考える際、死ぬ前に妻の作る手料理が食べたいと望みます。なぜならそれが私が最も好む食事であり、愛する人からの愛の籠もった形ある物の一つであるから。そして自分の趣味でこれまで欲していた物全てを自分の貯金をはたいて手に入れ、かつてかなえることができなかった欲求を満たします。このように皆誰しも「死」を目前とした際、自分の欲望を満たすことをまず考えます。自分の最期を知ることで悔いの残らないように自分自身を甘やかそうとするのです。

この作品の冒頭、余命宣告をされたウィリアムズ。彼も初めは至福を求め、長年休むことがなかった仕事を無断欠勤。全ての貯金をバッグに詰め、海辺の街を訪れます。そこで劇作家のサザーランドと出会い、平日に昼間から海沿いのレストランにたむろしていた彼に「余生の楽しみ方を教えてほしい」と相談します。ウィリアムズはこれまで同じ仕事を繰り返すばかりの日々を過ごしてきたことで、自分が何を求め、欲しているのかわからなくなっていたのです。酔い潰れるほど酒を飲んだウィリアムズはジャズバーのピアニストに故郷の歌「ナナカマドの木」の演奏をリクエストし、ウィリアムズ自身が歌いました。懐かしく、楽しい歌のはずが、これまでの人生をフラッシュバックのように思い出し泣き崩れてしまいます。

 
このシーンはとても印象的でウィリアムズのこれまでの生き方への後悔や、彼の涙から「生きたい」という強い願いを感じました。同じ立場になった時、自分の欲求を満たしたことでより、この世への未練を感じるでしょう。
 

「死」を待つのではなく、どう生きるのか

慣れない遊興で満たされなかった彼はロンドンに戻り、同じ部署で働くマーガレットと偶然出会います。転職希望の彼女は課長であるウィリアムズに推薦状を求めるために彼の「サボり」に付き合うのでした。そんな彼女に心を許したウィリアムズは自分の命があと僅かであることを告げます。ありのままの自分、本当はこうなりたかったと親子ほど年の差がある彼女に話した。

 
そこでウィリアムズは気づくのでした。今やるべきことは残された時間でただ「死」を待つのではなく、どう生きるのかであると。そこから自分の本当の望みは何なのかを考えるのです。
 

「死」を惜しまれる存在

「死」について考えると「生きる」ということはどういうことなのかという疑問が生まれます。自分を満たし、この世への名残を捨てる行動は他の誰にも影響することのない、まさにそれは私利私欲と言えます。自分のこの世での役割や存在意義に従い行動し、他人に感謝される人間であることこそが「生きる」ということではないでしょうか。そうした行動により、この世に残せるものが生まれ、最期の時を迎える際に「死」を惜しまれる存在になるのです。
 
ウィリアムズもこれまで膨大な量の案件が日々寄せられる部署に在職していたことにより市民からの要請に応えられずにいました。自分の役割を再確認したウィリアムズが最期までの時間をどう過ごすのかが作品後半では描かれています。彼がどう生き、死と向き合ったのか。

 
そしてここでウィリアムズは2度目の「ナナカマドの木」を歌うシーンがあります。前半と後半の違いをぜひとも見ていただきたいのです。
 

「死」に直面した際自分が何を残せるか

私がこれまで「死」について考える際、恐怖を感じることが多かったのです。「死後の世界はどんな場所だろうか」「周りの人たちは別れを惜しんでくれるだろうか」などという不安は今思えば考えても仕方のないことばかりです。
 
「死」に直面した際に大切になるのは自分が何を残せるか。人は人に支えられて生きているということなのです。そして、自分がこうしてこの作品に出会えたのも黒澤明監督がこの作品を作り、イシグロらが令和の世にリメークを手がけてくれたからです。この作品に出会い、私自身もより多くをこの世に残せるように、自分ではない誰かのために行動していきたいと強く感じました。
 
私も職種は違えどエンターテインメントを提供するダンサーです。私が行うダンスや、作品を通して何か見ている人の心に残る物、そして影響を与えられる物を作りたいと思いました。
 
それこそが私自身の「死」に向き合うことであり「生きる」ということなのだとこの作品から教えてもらいました。

ライター
関口裕子

関口裕子

せきぐちゆうこ 東京学芸大学卒業。1987年株式会社寺島デザイン研究所入社。90年株式会社キネマ旬報社に入社。2000年に取締役編集長に就任。2007年米エンタテインメント業界紙VARIETYの日本版「バラエティ・ジャパン」編集長に。09年10月株式会社アヴァンティ・プラス設立。19年フリーに。

ライター
Rhythm

Rhythm

りずむ(ダンサークリエイター)
大阪芸術大学舞台芸術学科ポピュラーダンスコース卒業。
卒業後、ユニバーサルスタジオジャパンでパレードダンサーとして出演。その他矢沢永吉、西野カナ、関ジャニ∞、SnowMan、SixStonesなどアーティストのバックダンサーを務め、現在YouTubeをメインに活動中。
RedLinX https://www.youtube.com/channel/UCQVZJQHPNRkTGV1dzw2aUdQ
Rhythm https://www.youtube.com/channel/UCWlTteWTWPg8caUVfVXJj6g

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