第78回毎日映画コンクール・TSUTAYA DISCAS映画ファン賞 「美しい彼 eternal」酒井麻衣監督=手塚耕一郎撮影

第78回毎日映画コンクール・TSUTAYA DISCAS映画ファン賞 「美しい彼 eternal」酒井麻衣監督=手塚耕一郎撮影

2024.2.04

BL映画も「人の感情を丹念に」熱量に推された「美しい彼 eternal」酒井麻衣監督 毎日映コン・TSUTAYA DISCAS映画ファン賞

毎日映画コンクールは、1年間の優れた作品と活躍した映画人を広く顕彰する映画賞です。終戦間もなく始まり、映画界を応援し続けています。

勝田友巳

勝田友巳

映画館でもスマッシュヒットした「美しい彼 eternal」は、凪良ゆうのシリーズ小説が原作だ。2021年にドラマ化され、放送終了後に人気が急上昇。映画化が決まり、その前段としてドラマの「シーズン2」も製作された。劇場に何十回も足を運んだというファンもいる熱意に支えられ、毎日映コンでも堂々のTSUTAYA DISCAS映画ファン賞。酒井麻衣監督は「ファンの熱量のおかげ。スタッフ、キャストを代表して感謝の思いを伝えたい」。

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いちずな恋心を描きたい

物語は、いわゆるBL(ボーイズラブ)系。高校時代、スクールカーストなら最下層の平良(萩原利久)は、同じクラスのスター的存在の清居(八木勇征)に恋をした。はじめは遠くから見つめるだけだったものの、やがて気持ちが通じ合い、平良の家で同せいするようになった。劇場版では、俳優になった清居と大学卒業を控えた平良の同せい生活と、2人の間に起きる事件を描く。王様キャラのくせに平良なしでいられない清居と、清居のためなら自分を顧みず尽くす平良の、熱くてもどかしい関係は、映画版でも継続中。

ドラマのシーズン1から手がける酒井監督だが、自身は「BLは通ってなかった」。そちらに詳しい妹に話を聞き、〝文化〟を踏まえて臨んだ」という。「攻めと受けとか、お作法とか、大事にしようと思いました」。とはいえ「人の感情を描くことに力を入れた」と語る。

「原作でも、いちずな恋心とか好き過ぎてこじらせてるところがすてきだったので、そこが伝わるように試行錯誤しました。型も大事だけど、中身も大事。芝居だけで見せるシーンは、演出の味付けを濃くしすぎないようにと心がけました」


「美しい彼 eternal」©️2022 劇場版「美しい彼〜eternal〜」 製作委員会

ピッタリの萩原利久と八木勇征

萩原と八木も、ドラマ版からの続投だ。「2人は役にぴったりで、平良と清居がリアルにそこにいました。尋常じゃなく熱い意気込みで、その姿勢のおかげでこの作品がより広く届いたと思う」

原作小説は55万部のベストセラー。「実写化は難しいとも言われていたし、原作ファンの反応は気になった。SNSでエゴサーチして『最終話どうなるんだろう』『映画版はどうなるの』と、好きだからこそ不安に思うファンの言葉にドキドキしてました」

やがて好意的反応が続々と寄せられた。「引きこもりだった自分が、映画を見るためにちょっとずつ外に出られるようになった」「つらい期間も、劇場版を楽しみに頑張れた」といったメッセージやファンレター。手作りのパネルを贈られたことも。「パワーがうれしいし、元気が出ます。見たら生活が楽しくなったという作品を作り続けられるように、精進したい」


作ってないと、いてもたってもいられない

高校時代の文化祭で集団創作の魅力を発見。監督を目指して京都造形芸大に進学した。卒業後は関西の映像制作会社に就職したものの、夢を追って上京。自主製作した「いいにおいのする映画」で注目され「はらはらなのか。」(17年)でデビュー。映画、ドラマで活躍が続く。

「美しい彼」のほかにも恋愛ものを手がけているが、作りたいのは「ファンタジー。人の感情を映像化するのが好き」。今回の「美しい彼」では、平良が刺された場面でバラの花びらが舞う。「平良にはこう見えてるんじゃないかなと。お願いして作らせてもらった場面です。でもそれも、振りかざしたら作品のためにならない。表現としてベストと思ったら入れます」

とにかく映画が作りたい。「作らないと、いてもたってもいられない。無条件に清居が好き、という平良と同じかも」。公開待機作や進行中の企画もあるとのことで、毎日映コンに再登場する日も遠くなさそうだ。

【第78回毎日映画コンクール 受賞者インタビュー】
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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
ひとしねま

手塚耕一郎

てづか・こういちろう 毎日新聞写真部カメラマン

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