この1本:「わたしのお母さん」 機微を柔らかに厳しく
母と大人になった娘の物語である。終盤まで、これといった事件はない。日々の生活を淡々と映し出しながら、母と娘のすれ違う心を刻んでいく。絞り込んだセリフ、無駄のない俳優の動きが、柔らかさと同じくらい厳しさに満ちた感情の揺らぎを拾い上げる。豊かな映画体験に目も心もくぎ付けになっていく。 息子の勝夫婦と同居していた母寛子(石田えり)はボヤ騒ぎを起こし、夫と2人暮らしの長女夕子(井上真央)の家に転がり込む。夕子は駅まで寛子を迎えに行くが、寛子が夕子に気がついた途端、目をそらしてしまう。すぐに夕子は笑顔を作る。序盤のこのシーンだけで、2人の関係性を一気に見せる。 寛子は隣人家族と親しくなり、家事を仕切...