「地面師たち」より 

「地面師たち」より © Ko shinjo/Shueisha

2024.12.31

「地面師たち」、「シティーハンター」ほか、2024年配信のNetflix日本ドラマを振り返り

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

筆者:

ヨダセア

ヨダセア

2024年も、Netflixでは「三体」や「ジェントルメン」、最近では「セキュリティ・チェック」、「イカゲーム」シーズン2など海外作品の話題作が多く見られた。しかし、今年のNetflixでは海外作品以上に日本作品が際立った印象がある。今回は特に注目を集めた4作品を通じて、この1年を振り返ってみたい。どの作品も、実力派キャストによって話題を呼んだだけでなく、一度見始めると心を離せなくなる巧みなストーリーテリングで見る者を魅了した作品だ。


「忍びの家 House of Ninjas」より  © 2024 Netflix,Inc.

「忍びの家 House of Ninjas」(2月15日より独占配信中)

「忍びの家 House of Ninjas」は、賀来賢人、江口洋介、木村多江、高良健吾、吉岡里帆など実力派キャストが集結し、〝現代に生きる忍者たち〟の姿を描いた意欲作だ。SNSやスマートフォンが当たり前となった現代社会で、伝統的な忍びの技と価値観を守りながら生きることを強いられる彼らの姿が、違和感なく描かれている。

特筆すべきは、忍者としての浮世離れした生き様と、一般人としての日常生活の両面を巧みに描き分けたバランス感覚だ。例えば、任務のための体術訓練と、家族とのだんらんや部外者との何気ないやりとりのシーンが自然に混ざり合う。そのはざまで揺れ動く登場人物たちの心情描写も説得力がある。


「シティーハンター」より © 2024 Netflix, Inc.

「シティーハンター」(4月25日より独占配信中)

「シティーハンター」は、知名度の高い名作漫画の実写化という難しい挑戦ながら、見事な成功を収めた。その証左として今作は、第7回アジアン・アカデミー・クリエイティブ・アワード2024で最優秀作品賞、最優秀コメディー部門主演俳優賞、最優秀主演男優賞という3冠を達成している(※)。

鈴木亮平演じる主人公・冴羽獠は、原作どおりの〝コミカルなスケベキャラ〟という要素を残しつつ、現代的な魅力を纏(まと)った新しいヒーロー像を確立した。特に、香(森田望智)が持つ巨大なハンマーのような漫画的表現を、納得のできる展開で実写映画ならではの描き方で再現するといった工夫は印象的で、原作読者にもそうでない視聴者にも受け入れやすい作品にしようとする気概とバランス感覚を随所から感じられた。80年代の世界観を現代に翻案しながら、アクションとドラマの両面で観客を魅了する作品に仕上がっている。

※第7回アジアン・アカデミー・クリエイティブ・アワード2024では「シティーハンター」だけでなく、Netflixシリーズ「幽☆遊☆白書」も日本作品では史上初となる最優秀視覚効果賞を受賞した。


「地面師たち」より

「地面師たち」(7月25日より独占配信中)

「地面師たち」は、実際に起きた「積水ハウス地面師詐欺事件」をモデルに、詐欺師たちの世界を綾野剛、豊川悦司、ピエール瀧、小池栄子、北村一輝ら豪華キャストで描き出した。人が犯罪の世界へと傾いていく心理の機微から、巧妙な詐欺の手口、そして執念で真相に迫ろうとする捜査陣の動きまでが、緻密な脚本と演出で描き出される。クライムサスペンスとしての緊迫感、社会派ドラマとしての重み、そして何より一人一人の内面に迫るヒューマンドラマとして、どの側面からも見応えのある作品に仕上がっている。

特に印象的だったのはピエール瀧演じる法律屋・後藤の「もうええでしょう」というセリフだろう。シンプルな言葉でありながら相手に有無を言わせぬすさまじい威圧感が感じられ、そのインパクトから「新語・流行語大賞」にノミネートされるほどの社会現象となった。ほかにもアントニー(マテンロウ)ふんするパシリの〝オロチ〟など、個性的な脇役陣もそれぞれが最適なキャスティングで物語に深みを与えている。


「極悪女王」より © Kimu/Netflix

「極悪女王」(9月19日より独占配信中)

「極悪女王」は、伝説のプロレスラー・ダンプ松本の半生を、ゆりやんレトリィバァの体当たりの演技で描いた意欲作だ。当事者(プロレスラー)たちの監修も得て再現された試合シーンは圧巻の迫力を見せる。70年代から80年代にかけての女子プロレス界を知る世代には郷愁を誘うことが想像できる作品だが、一方でプロレスの知識がほとんどなく、今作の物語とは無縁の世代であるアラサーの筆者にとっても未知の世界・未知の物語として非常に刺激的なドラマであった。今作はプロレスファンでない視聴者にも、その世界の魅力と興奮、人間ドラマを伝えることに成功した作品といえる。

これら4作品に共通するのは、演出やフィクションと、泥臭い現実描写との絶妙なバランスだ。実話をベースにした「地面師たち」「極悪女王」はもちろん、「忍びの家 House of Ninjas」「シティーハンター」といったフィクション作品も、一見とっぴに見えるストーリーの現代社会への落とし込みが非常に巧みである。いずれも生々しいリアリティーが共感や没入感を生み、それぞれ実力派キャストの演技力がそれを確かなものにしたのだ。


(左から)「ガス人間」主演の小栗旬、脚本のヨン・サンホ、片山慎三監督、共演の蒼井優=提供写真

小栗旬と蒼井優共演作「ガス人間第一号」など、25年の作品も期待

大きな話題を呼んだこれら4作のほかにも藤井道人監督作品「パレード」、永瀬廉&出口夏希主演「余命一年の僕が、余命半年の君と出会った話。」、有村架純&坂口健太郎主演「さよならのつづき」など、さまざまな日本作品で豪華キャスト・スタッフが活躍した24年、Netflixは確実に日本の映像コンテンツの新たな可能性を切り開いてきた。こうした流れは25年以降もさらに加速していくだろう。

すでに今後のNetflixには複数の期待できる日本作品が控えている。小栗旬と赤西仁が初のNetflix作品に挑むロマンスコメディー作品(タイトル未定)では、日本劇場未公開のフランス映画「匿名レンアイ相談所」(10年)を原作として、月川翔監督(「君の膵臓をたべたい」)がメガホンを取る。また、小栗旬と蒼井優が23年ぶりに共演する実写シリーズ作品「ガス人間」では、韓国の名匠ヨン・サンホ(「新感染 ファイナル・エクスプレス」)と片山慎三監督(「さがす」)がタッグを組み、東宝の名作特撮をリブートする。

Netflixが無限大の可能性を示してくれることにより新たな日本人クリエーターの参画や、意欲的な企画の誕生が次々に連鎖し、今後も我々を未知の世界へと誘ってくれることを心から期待したい。

関連記事

この記事の写真を見る

  • 「地面師たち」より 
さらに写真を見る(合計1枚)