「アリスとテレスのまぼろし工場」©新見伏製鐵保存会

「アリスとテレスのまぼろし工場」©新見伏製鐵保存会

2023.9.19

あつあつを頰張る! レトロトースト自動販売機と「アリスとテレスのまぼろし工場」

3度の飯より映画が好きという人も、飯がうまければさらに映画が好きになる。 撮影現場、スクリーンの中、映画館のコンフェクショナリーなどなど、映画と食のベストマリッジを追求したコラムです。

宮脇祐介

宮脇祐介

現在、大ヒット公開中の「アリスとテレスのまぼろし工場」(毎日新聞社など製作委員会)の描かれる時代は僕ら50代にとって、とても懐かしい風景に思える。もちろん劇中では時代設定は明らかにされてはいないのだが。
もちろん携帯電話はない。3世代家族同居で、親戚がふらっと立ち寄ってきて家にドカドカ上がりこんでくる。子供たちはちょっと高いところから飛び降りたり、線路に立ち入ったり、深夜ラジオに夢中になったり・・・・・・。終戦からまだ四半世紀しかたっていないころ。大人も子供もだれもが今よりも少し荒ぶっていたころ。

そんな懐かしい風景と物語の筋を追いながら見ていると、ドライブインとおぼしき無人の店舗でトーストの自動販売機から取り出した熱々のパンをオオカミのような少女五実が頰張るシーンに心をとらえられた。今では陳腐な食べ物だが、あの頃はちょっとした憧れのような食べ物だった。ああ、熱々のアルミホイルに包まれたトーストをまた食べてみたい。そんなノスタルジーにかられた。
 
スマホで検索してみると、そんな自動販売機が相模原にあるというので土曜日の昼下がりにちょっと遠出して現地に行ってみた。

中古タイヤ市場相模原店=以下撮影:宮脇祐介
 
神奈川県道507号線陽光台7丁目交差点の近く相模原市南区下溝に中古タイヤ市場相模原店自動販売機コーナーがある。JR淵野辺駅から歩いて45分くらいの場所だ。

ずらりと並ぶれレトロ自動販売機
 
そこにはレトロ自動販売機を中心に、レトロゲーム、ガチャガチャなど150台ほどの機械が整然と並べられている。休日ということもあり、老若男女、何だか全ての年齢層をそろえてみましたと言わんばかりのバラエティーにとんだ客層が、思い思いの自動販売機に、もちろんスマホ決済ではなく「硬貨」を入れて飲食を楽しんでいた。

カレーライスの自動販売機
 
自動販売機の王道うどん、そば、ラーメンのほか、カレーライスやハンバーガー、お目当てのトーストといった主食、アルコール飲料、清涼飲料、ガム、アイスから今や見なくなった電池やフィルムなど、変わり種ではチョコバナナなど、思いつく自動販売機がほとんどすべてそろえてある。

小型の乾電池自動販売機
 
お目当てのトーストの自動販売機は手前の入り口すぐに2台並んでいる。1台2種類の2台。あんバター、ツナ、ハムチーズ、コンビーフの4種類。迷わずハムチーズを押すがなんと売り切れだったのだ!! 仕方なくコンビーフを押し待つこと約1分。熱々を通り越して、まさにやけどせんばかりのトーストが出来上がって取り出し口にできて来た。アルミホイルをはがし、一口頰張るとちょっと焦げて香ばしいパンの香りとコンビーフの脂分と塩味が口の中いっぱいに広がる。その時、故郷にいる父やいとこたちのまぼろしがふとよみがえってきたのだった。それはまるで止まっていた思い出に足がゲジゲジと生え出してきて動き出すように。

2台並ぶ人気のトーストの自動販売機
 
ところでなぜこんなにレトロ自動販売機を集めて販売をしているのだろうか。当日は稼ぎどきの土曜日で本業のタイヤ交換にひっきりなしに来客があったので、遠慮して後日電話でその事情を聞いてみた。社長の斉藤辰洋さんの「趣味で集めたレトロ自動販売機でタイヤ交換待ちをしているお客様のために7、8年前から販売を始めた」とのこと。トーストは「容器は大阪の業者にたのみ、中身は地元の業者に発注している」と言う。「やはりハムチーズがダントツに売れている。他のものの5倍くらいかなあ」とのことなので売り切れも仕方ない。「だいたいタイヤ交換を望むのは男性が多い。家族で来てお父さんがタイヤ選びをしている間に、お母さんや子供が販売機を楽しむ。結果レトロ販売機を通して良いコミュニケーションが生まれてタイヤ交換もスムーズに事が運ぶ」そうだ。「若い人には珍しさ、年配の方には懐かしさが受けて、休みの日は1000人くらいのお客様が来る。やったかいがあったなあと思っている」と斉藤さんは楽しそうに答えた。

アルミホイルに包まれたトースト

焦げて香ばしいパン
 
ところで話を映画に戻そう。
主人公は14歳の男女だが、「アリスとテレスのまぼろし工場」は決して年齢を選ばない作品である。そんなレトロな時代を描いたこともあり、どんな年代でも「もしこの世界に自分が生きていたらどんな判断をするのだろうか」という「物語の中の自分の人生のif」を迫られる。選んだifが正しいかどうかも自分の中にある。それがわれわれ世代の国宝級歌姫の中島みゆき「心音(しんおん)」を主題歌に持ってきた狙いなのかもしれない。年齢ではなく、誰もの心に迫る作品。きっと「.若い人には珍しさ、年配の人には懐かしさ」を伴って映画の描く世界観にひたれるであろう。

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ライター
宮脇祐介

宮脇祐介

みやわき・ゆうすけ 福岡県出身、ひとシネマ総合プロデューサー。映画「手紙」「毎日かあさん」(実写/アニメ)「横道世之介」など毎日新聞連載作品を映像化。「日本沈没」「チア★ダン」「関ケ原」「糸」「ラーゲリより愛を込めて」など多くの映画製作委員会に参加。朗読劇「島守の塔」企画・演出。追悼特別展「高倉健」を企画・運営し全国10カ所で巡回。趣味は東京にある福岡のお店を食べ歩くこと。

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