この1本:「川っぺりムコリッタ」 夏の日差しと死の影と
「かもめ食堂」や「めがね」で、荻上直子監督は世知辛い日常のエアポケットのような場所を、映画の中に作りだしてきた。優しく、でも押しつけがましくない人たちが迎えてくれる居心地の良い安全地帯。前作「彼らが本気で編むときは、」では、安全地帯の平穏を脅かす世間にあらがい、今作では取り残されたような場所で肩を寄せ合う人々を描く。 刑務所から出た山田(松山ケンイチ)は、海辺の小さな町にたどり着く。イカの塩辛工場で働き、古い集合住宅「ハイツムコリッタ」で暮らし始めた。 ムコリッタの風変わりな住人たちによるオフビートな笑いは、脱力系の荻上世界。とりわけ、ずうずうしく山田の家に上がり込み、勝手に風呂に入りご飯...