「こんにちは、母さん」
福江(吉永小百合)は東京・向島で、夫が残した足袋店を1人で切り盛りしている。一人息子の昭夫(大泉洋)は大企業の人事部長で、会社の人員整理に悩み、妻とも別居中。昭夫の娘で大学生の舞(永野芽郁)が、家出して福江の元に身を寄せた。福江は路上生活者支援のボランティアに精を出し、まとめ役の牧師、荻生(寺尾聰)に恋もしている。昭夫は母親の変わりように大慌て。 吉永が母親を演じる、山田洋次監督の「母もの」3作目。下町の人情を背景に福江の恋模様を描くコメディーだが、それだけではない。山田監督は現代社会に強いまなざしを向けて、企業の非情さや働くことの意義、老いの不安、戦争の傷痕まで織り込んだ。 「男はつらいよ」から変わらぬ下町の人情描写も、今やファンタジーめいてしまったが、ある種の理想郷として羨ましい。そして、作り込んだセットといいメリハリを利かせた演出といい、なくしてほしくない日本映画の粋が凝らされている。 1時間50分。東京・丸の内ピカデリー、大阪ステーションシティシネマほかで公開中。(勝) 異論あり 吉永が「どっこいしょ」と立ち上がるなど、端々におばあちゃんらしさも漂う役を演じて好感。ラストの晴れやかな笑顔にサユリストもご満悦では。ただ息子の葛藤や対応には現実感が薄く、なんでそうなるかと疑問符の連打。祖母の引き立て役でしかない孫娘にも一波乱ほしかった。(鈴)