この1本:「彼女のいない部屋」 語り得ぬ喪失の迷宮で
クラリス(ビッキー・クリープス)はある朝、2人の子供と夫マルクを置いて車で家を出る。クラリスは家族を思いながら別の町で生活し、残された夫と子どもたちも、時に喪失感にとらわれる。 おおむねこれぐらいの情報を持っていれば十分。後は映画に身を委ねるべし。監督のマチュー・アマルリックは、アルノー・デプレシャン監督の初期の作品で俳優として頭角を現した。「007 慰めの報酬」など娯楽大作でも存在感を発揮しながら、監督としてはアート色の強い作品を作る。「彼女のいない部屋」では、大胆で実験的な試みをしている。 クラリスはなぜ家族を置いて家を出たのか。どこで何をしているのか。説明なし。独りで働き、家族の愚痴...