百花
母百合子(原田美枝子)と息子泉(菅田将暉)との間には、以前母が起こしたある事件で互いの心に溝が横たわっていた。ある日突然、百合子が「半分の花火が見たい」と言って認知症を発症する。百合子が記憶を失うたびに、泉は母との思い出をよみがえらせていく。 ゴツゴツとした歯ごたえあるチャレンジングな作品だ。ワンシーンワンカットは序盤はやや無理が目立つが、終盤に向かうほど結実。いわゆる〝認知症の映画〟という枠からもいい意味で逸脱し、一人の女性の生々しい生の瞬間と喪失のはかなさに迫った。母の胸にずっと生き続けてきた目に見えないものを映し撮ろうと真正面から挑み、これまでにない女性映画になった。 認知症になった母を一人の女性として見つめた短編ドキュメンタリー映画「女優 原田ヒサ子」を監督した原田だからこそ踏み込めた。川村元気は演出へのこだわりとキャスティングで監督としての懐の深さをうかがわせた。1時間44分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(鈴) ここに注目 母への葛藤が和らいでいく泉の心の動きや、記憶を失いながらも息子への愛を貫く百合子の切実さに触れ、親子とは何かを考えさせられた。母と息子の何気ない日常や夫婦の会話からふとした思い出がよみがえり、しまい込んでいた記憶を取り戻したような感覚を味わえるはずだ。(倉)