この1本:「あんのこと」 弱者の再起の難しさ
どん底の境遇にいる少女が、支援者の献身と本人の努力で立ち直る。そんな物語なら、どんなによかったことか。実際の出来事をモデルにしたとはいえあまりに重く、そしてだからこそ切実に社会のひずみを突きつける。 杏(あん)(河合優実)は母親(河井青葉)に虐待されて育ち、覚醒剤中毒で売春を強制されていた。しかし警察で風変わりな刑事、多々羅(佐藤二朗)と出会い、彼を取材する週刊誌記者、桐野(稲垣吾郎)の助けも借りて、まっとうな生活への道を歩き出す。 映画の前半、トントン拍子に事が運ぶ。多々羅は業務の外で薬物中毒者を更生させる団体に杏を誘い、社会復帰のために役所と掛け合う。杏は理解ある経営者に出会って介護の...