よくばり映画鑑賞術 米アカデミー賞「ドライブ・マイ・カー」 「回転」と「音」を起点に深読みして分かったこと その1
村上春樹の短編小説「ドライブ・マイ・カー」の終盤に「回転音」という言葉が出てくる。「耳に届くエンジンの回転音が僅(わず)かに変化するだけだ」という一文である=注1。今回はこの箇所を起点にして映画「ドライブ・マイ・カー」(濱口竜介監督、2021年)を読み解いていこう。 家福の妻の名前はなぜ「音」なのか 映画では主人公・家福(西島秀俊)の妻(霧島れいか)の名前は「音」に設定されている。「家福音」。劇中で「宗教的になりすぎる」と言われる名前だが、実は小説のなかでは妻の名は明かされていない。映画化にあたっては「ドライブ・マイ・カー」が収録されている短編集「女のいない男たち」から「シェエラザード」...

伊藤弘了
2022.4.05