「パリタクシー」
「フランスを走るタクシー映画」と言えば、リュック・ベッソン製作・脚本の「TAXi」シリーズを思い浮かべてしまうが、派手なカーアクションは一切なし。ゆっくりとした会話と車の流れに身を任せるうち、人生の奥深さや輝きを味わわせてくれる逸品だ。 金も休みもなく免停寸前でイラつき気味のシャルル(ダニー・ブーン)のタクシーに、老人施設入所を決めた92歳のマドレーヌ(リーヌ・ルノー)が乗る。彼女の求めで寄り道をするうち、パリの街に秘められた数奇な足跡が浮かび上がる。母と息子ほどの年の差がある2人の〝旅〟はどこにたどり着くのか……。 終活や家庭内暴力、女性差別といった重いテーマを盛り込みつつ、説教臭さは皆無だ。仏を代表するコメディアンのブーン、国民的シャンソン歌手のルノーの無駄を廃した演技と脚本の妙だろう。セーヌ川とエッフェル塔、シャンゼリゼ通り、凱旋(がいせん)門とパリの美しい映像も主役級のきらめきを放っている。クリスチャン・カリオン監督。1時間31分。東京・新宿ピカデリー、大阪・ステーションシティシネマほか。(坂) ここに注目 パリの観光名所にうっとりと見ほれ、次第にほぐれていくマダムと運転手の掛け合いを楽しんだ。しかしチャーミングで上品なマダムの過去が回想として描かれるパートでは、想像以上の過酷さに驚かされる。美しい風景に人生の喜びと悲しみを重ね、幸福な余韻を残す珠玉の1本。(細)