新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり
新型コロナウイルス感染拡大で、パリ・オペラ座も世界中の劇場と同じく閉鎖を余儀なくされた。3カ月間の自宅待機を経て、劇場でのレッスンに復帰した2020年6月から、有観客公演が再開する21年6月までのバレエ団に迫るドキュメンタリーだ。 拍手に飢えたダンサーたちのリアルな葛藤は切実だ。難度の高いヌレエフ振り付けの大作「ラ・バヤデール」の公演成功に向けて、マスクを着けたままでの練習などに取り組むが、開幕4日前に劇場が再び閉鎖。無観客公演の配信が決まり落胆する姿には、バレエは観客が客席にいてこそ成立する芸術であることを再認識させられる。 身体を駆使するダンサーの絶頂期は短く、オペラ座バレエ団の契約は42歳まで。「身体の生物学的な時間との闘いだ。今がキャリアのピークなので、中断が続くとピークの数年が台無しになる」と焦燥感を募らせるエトワール(最高位)の言葉は重い。プリシラ・ピザート監督。1時間13分。東京・Bunkamuraル・シネマ、大阪ステーションシティシネマほか。(須) ここに注目 コロナ禍の芸術活動は、経済や「不要不急か」と社会との関係で語られがち。しかし、この作品は芸術家の表現意欲という視点が目新しい。世界有数のダンサーたちは、生活は保障されてもキャリアのピークを浪費する不安にかられる。無観客舞台は空虚で、災厄の罪深さを再認識。(勝)